上間常正 @モード

心の奥に潜む差別意識の応酬 ドルチェ&ガッバーナの広告動画騒動

  • 上間常正
  • 2018年12月7日
  •  

  • ドルチェ&ガッバーナのデザイナーのドメニコ・ドルチェ氏(右)とステファノ・ガッバーナ氏

  • 19年春夏ミラノ・コレクション=大原広和氏撮影

  • 19年春夏ミラノ・コレクション=大原広和氏撮影  

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 イタリアの人気ブランド「ドルチェ&ガッバーナ」の中国向け動画広告が、当の中国国内で大きな反発を呼んだことが話題になった。売るための広告なのだから悪意を込めたはずはないのに、なぜそんな結果になってしまったのか? 同じような動画が日本向けに作られたとしたら、日本ではどんな反響が起きるだろうか。

 動画の内容は、中国人と思われる女性がピザやパスタを箸(はし)で不器用に食べている様子を撮影したものだった。女性の容貌(ようぼう)はいかにもステレオタイプのアジア系だし、両手で食べようとするのは箸を初めて使う西洋人のカリカチュアとも受け取れる。そんなことからすれば、この動画は受けを狙ったジョークだったのだと思う。

 とはいえ、それが批判を巻き起こしてしまったのは、この動画にはアジアへの明らかな差別意識が潜んでいると思えるからだ。そのことを自覚しているとすれば、こんな無防備とも言えるような表現は決してしなかっただろう。多くの場合、差別はあからさまによりも不用意に出た方が、相手をより強く刺激したり傷つけたりするのだ。

 差別というのは、優越感と劣等感があいまって生まれる現象で、自尊心とも深く関わっている。自由な競争社会では、結果として富と権力を得た勝者とそれに失敗した敗者が出ることが避けられない。今回の動画では、中国という国の歴史と現状が大きく影響しているように思える。

 中国は最も古い4大文明の発祥地の一つ。その中でも国としての歴史が今も続く唯一の国でもある。最近の経済成長で政治的にも大国の地位を占めるようになり、かつてのユーラシア大陸の覇者だった時の自尊心が急速に高まってきているようだ。文明史でいえば後発のヨーロッパで、しかも今では経済的にもパッとしないイタリアからこんな差別的動画が発信されるのは許せない、との気持ちがあるのかもしれない。

 中国から来ている何人かの大学院留学生に聞くと、その半面で中国はまだ発展途上国だとの劣等感も強いのだという。その裏返しとしてのイタリアへの優越感が表面に出てきたのだとすれば、それは差別意識と言わざるを得ないだろう。中国人の差別意識は、きっかけがあれば他国に向けても表面化するのだと思う。

 2人組のデザイナーによるドルチェ&ガッバーナは、片方のドメニコ・ドルチェがシチリア島のパレルモ出身だ。この島独自の伝統文化や高度な仕立て技術を基盤としながら、時代の少し先を読む鋭い感覚と優れた美意識を生かしたセクシーでモダンな表現が特徴だ。1980年代半ばから活躍し、人気は今では中国も含めて世界的に広がっている。

 しかしイタリア国内では、南の島から来たやんちゃな異端児とみなされがちで、ミラノやフィレンツェのブランドと比べて差別的な扱いを受けることもあったようだ。ミラノ・コレクションでも、ショーの公式スケジュールに入っていない。もしパリで発表しようとしたら、多分もっとひどい扱いをされるだろう。

 差別を受けた場合、一般的には(1)自分も差別する側に回ろうと努力する(2)差別される側の生き方にこそ道徳的な高さがある、と信じようとする(3)自分より弱い人たちを見つけて差別する、などの対処の仕方が考えられる。(1)、(2)は少なからず努力や才能が必要で、多くの人は(3)を選ぶ(選ぶしかない)のが歴史的にも今も変わらぬ現実と思える。

 ドルチェ&ガッバーナがメディアに向けた広告写真では、中国人のモデルが白人・黒人モデルとともにドルチェ&ガッバーナの服を自然に着こなしている。だが今回の映像に表れてしまったのは、彼らの心の奥に強く潜んでいた(3)の差別意識と言えるのではないか。欧米では見つからなかった差別の対象が、彼らがあまりよく知らない非ヨーロッパとしての未知のアジアだったのだと思う。

 では、映像が日本向けだったらどうか? そう考えてみると、中国ほどの反発は多分起きないだろうと思う。もともと歴史的な大国意識などはなかったし、経済的にはずっと前から先進国でもあるので、イタリア人の奥深い差別意識などにはピンとこなくて、特に若い世代なら多くが単なるおしゃれなジョークとして面白がるだろう。

 しかし最近の嫌中国、嫌韓国・北朝鮮本の出版ぶりやヘイトスピーチのデモなどを見ると、そうも言っていられない状況に日本も陥ってきているのではないかという気もする。弱者の差別意識というのは、いわゆる愛国的メディアや無責任な流言飛語によってあっという間に広まってしまう。今回の中国では、SNSが大炎上したことで騒動が必要以上に広がってしまったのだから。


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PROFILE

上間常正(うえま・つねまさ)

写真

1972年、東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。88年からは学芸部(現・文化くらし報道部)でファッションを主に担当し、海外のコレクションなどを取材。07年から文化学園大学・大学院特任教授としてメディア論、表象文化論などを講義。ジャーナリストとしての活動も続けている。

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