朝日新聞ファッションニュース

新しさよりも――意識の変化に呼応~ファッション回顧2018

  • 2018年12月26日

ヘビ革などの不使用を宣言したシャネル。10月のパリ・コレでは海辺を模した会場で優しく爽やかな新作を見せた

環境や動物への配慮

 ファッションに倫理性や持続可能性を求める動きが、これまで以上に強く表れた1年だった。

 オーガニックコットンや、本物の毛皮に似せた「エコファー」、再生素材に古着のリサイクル、レンタルドレス。20世紀から続く大量生産・大量消費による環境破壊などへの反省から、人や動物、地球に優しいとされる商品やサービスが人気だった。単なる新しさや質、デザイン性ではなく、社会的な意義など、感情や理性に訴える力がより求められるようになったのだ。

 生活者の意識の変化に合わせ、多くのブランドが動物愛護や環境、生産者の労働環境の問題に配慮する取り組みを次々と発表した。

 去年のグッチに続き、ヴェルサーチェやマイケル・コースが服やバッグなどで毛皮を使わないと表明。初夏にはユニクロやH&Mがアンゴラヤギの毛であるモヘアの使用をやめると発表した。12月にはシャネルまでもが、高級バッグなどの主力素材であるワニやヘビなどエキゾチックレザーの不使用を打ち出した。

 アパレルが売れ残り商品を大量に廃棄していることが問題となり、批判を受けていたバーバリーが焼却処分をやめると9月に宣言した。

多様性の表現、さらに

ルイ・ヴィトンのショーの最後にランウェーで感涙するヴァージル・アブロー。床は多様性を表す虹色だった=6月、パリ

 世界的に社会の分断が指摘されるなかで、性差や肌の色、出自による差別をなくし、多様性を認めようとする機運が様々な形で現れた。

 1月、米ゴールデングローブ賞の授賞式で、俳優たちが黒一色のドレス姿でセクハラの撲滅を訴えた。

 3月、老舗ルイ・ヴィトンがメンズでアフリカ系のデザイナー、ヴァージル・アブローを起用すると発表。6月のパリ・コレクションでは、多様な人種のモデルが多彩な色柄の服を着て「多様性」をアピールした。

 7月のパリでヴェトモンは、デザイナーの故郷であるジョージア(グルジア)出身のモデルにパンク調の服を着せた。混乱した自国の歴史の中で、自身が負った傷への長年の怒りの表現だった。

セリーヌの2019年春夏コレクション

 「ジェンダーレス」への意識がさらに広がり、メンズとレディースを同時に発表するブランドが増えた。カリスマ的デザイナー、エディ・スリマンが就任したセリーヌは初めてメンズに進出。新作は、ドレスのほかはほぼ男女兼用だった。

 こうした流れの中で、「差別的」と捉えられると、SNSで強い反発が広がった。11月にドルチェ&ガッバーナがネットで流した広告動画は、中国の文化を馬鹿にしているなどと批判され、不買運動に発展。今月には、プラダの黒い肌のキャラクター製品が「人種差別的」との指摘を受けて撤去された。

明るい色、重ねる装い

(左)コムデギャルソン2019年春夏、(右)バレンシアガ2019年春夏

 街で流行したのは、重苦しい社会の気分を晴らすような赤やピンクなど明るい色。ここ数年のトレンドだった1990年代調のストリートスタイルは、スカートにスパッツやパンツ、さらにブーツといったより凝った重ね着に。ウエストポーチやロゴ入りアイテム、アニマル柄。靴底がどんどん厚くなったスニーカーは、父親が履いていそうだと「ダッドスニーカー」と呼ばれた。こうしたトレンドはあったが、いずれも大きな潮流にはならなかった。

 10月、日本のプレタポルテを草創期から引っ張り、正統派エレガンスを貫いてきた芦田淳が亡くなった。服作りで最も大切なことは「愛を込めること」と語っていた。

 有力ブランドは伸びしろのあるメンズやアジア市場に注力。デザインの新しさよりも、ショーの演出や新奇な発想の期間限定店などで新鮮に見せる傾向が強まっている。

 そんな中で、三宅一生は「野性の感覚を取り戻すことで生まれるものを形にする」と試作を重ねた。また、コムデギャルソンの川久保玲は「心の中から自然に出てきた内面的なデザイン」に取りかかった。世界的に知られるベテラン2人がそろって、人間が本来持つ感覚という原点に立ち戻ったことが、次の新たなものづくりの方向を示しているように思える。

 (編集委員・高橋牧子)


<私の3点>

■西田善太 マガジンハウス「ブルータス」編集長
▼次世代、ジェネレーションZ…
▼ルイ・ヴィトンのメンズデザイナーにヴァージル・アブロー…
▼自分の欲望を知っている買い物上手…

 ファッションのスピードは世相より半歩、先を行く。人種・人口・世代比の変化で、ファッション界は階級や人種、性別を超えて誰もが活躍する素地が整った様子。ブラックパワーの台頭に注目せよ。孤高の天才デザイナーよりも、マルチタスクのディレクターが吉。ネットワークの強さを利用して、アートも音楽も、人に影響するものならなんでもこなすのが才能。0から1を作るより、1を100にする方がすごいかも。自分のお金が何に使われるか、を考える買い物上手が台頭。世間のあおりを楽しみつつ、自分のリアリティーをしっかり持つ利口な買い手が増えてきた。販売する側の供給過多、労働問題、自然破壊にも意識的。両者にらみ合い?

    ◇

■高野公三子 パルコのウェブマガジン「アクロス」編集長
▼「フィービー・ファイロによるセリーヌ」の終了…
▼一方、日本の女性若手デザイナーの浮上…
▼ジェンダーをめぐるファッションの役割の見直し…

 単にデザイナーの交代ということだけでなく、そこに表象されていた“働く女性”のジェンダー感やエイジングへの意識が百八十度転換しそうなことへの残念感。コトハヨコザワやマラミュートなどが東京コレクションでランウェーショーを披露したり、アキコアオキがLVMHプライズのセミファイナリストに選ばれたりしたこと。路上でスナップする38年間の「定点観測」史上初めて、“週末だけ女装する人”にふつうに出会い、インタビューさせて頂いたこと。ちょっと突っ込んで解析すると、「ジェンダーの規定」からの解放の一例かと。

 <写真は大原広和氏撮影>


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