このパンがすごい!

食パンにミルククリームを塗ったご当地パン「クリームボックスの町」福島県郡山へ

  • 文・写真 池田浩明
  • 2019年1月8日

 なつかしいパンを食べたくなって、郡山駅に降り立った。クリームボックスの町、郡山。パン屋はこぞって、このパンを店頭に並べる。スライスした食パンに、ミルククリームを塗った、それだけのもの。それがなぜ、この町では大人から子供までみんなに愛されるのか。

 看板に描かれた、かわいい女の子のキャラクターに出迎えられる。大友パン店は、レトロパンワンダーランド。カステラとパン生地を重ねた昭和的ハイブリッドスイーツ「チョコマーブル」、ふわふわパンでポテトサラダを包んだポテトブレッドなど、魅惑の光景が広がる。その中で、まるでゲレンデのように、純白が目に沁(し)みる一角が、目指すクリームボックスだった。

大友パン店、チョコマーブル(手前)とバターロール

 なにがなつかしいかといって、クリーム。世間ではバニラビーンズ入りだ、なんだと濃厚化の激しい大波が押し寄せるけれど、大友パン店は牛乳と生クリームを練って作る、甘いベシャメルソースといった趣。その物足りなさにこそ、しみじみとしたおいしさが潜んでいる。ソフトさの中にコシのある食パンを噛(か)み締めれば、小麦の白い味わいが広がる、こちらもしみじみ系の食パン。しみじみとしみじみが掛け合わされ、なつかしさのレバレッジが巻き起こる。

 3代目の吉田明弘さんによれば、厚切りでもやわらかく、味わい深い秘密は、100%中種(通常約70%)製法のおかげだという。大正13年(1924)創業というから今年で95年、クリームボックスをはじめてから40年。時は流れても、先代の味を守りつづけ、いまワンダーランドとなった。

 昭和51年(1976)にクリームボックスを生みだしたベーカリーロミオ。発祥の店のクリームはすごく濃厚で、コクがあった。食パンも、耳にくっきりとした甘みがありパンチがある。大友パン店がしみじみ系であれば、こちらはクリームもパンも濃厚系。

大友パン店、大人のアップルラムレーズン(手前)と、メープルナッツボックス。クリスマス仕様で、ひいらぎの葉もトッピング

 クリームボックスにも、店によって個性があることがわかった。伊東パンのクリームボックスには耳がないし、ラウンド(円筒形の食パン)で作る店もある。

 バリエーションもぞくぞくと生み出される。大友パン店の「大人のアップルラムレーズン」は、名前の通り、レーズンから染み出すラムの芳香がミルクの中を滲(にじ)みわたっていく。ロミオの「アーモンドボックス」には、丸ごと一粒のアーモンドがトッピング。かりっと噛んだとき放たれる香ばしさとミルククリームの相性は悪魔的。老舗のガトーナカヤには、あんこを入れた「あんクリームボックス」が存在する。

チロルのクリームボックスは山型食パン

 「ボックス」というからには、角食パンでなければと思っていたら、手作りパンの店・チロルで出会ったのが、山食パンを使ったクリームボックス。ばりっばりっ。弾けるように耳が割れる。すばらしい香ばしさ、中身の軽やかさは、山食パンならではだ。しかもクリームがとろっとろ、とろけがものすごく、喉越(のどご)しで甘みを感じさせながら、流れ下る。

「よそのお店のは、表面だけ固めるために数十秒焼くか、フィルムを貼ってあるものは焼いてないと思うんですが、うちのはしっかりトーストします。クリームも、練乳やバターを使って濃厚にするお店もありますが、うちは牛乳、生クリーム(と砂糖とコーンスターチ)だけ」と2代目の草野大輔さん。パンがさっくりして、クリームの口溶けがいいのはそのせいだ。

 食パンの上にミルククリーム。ただそれだけのなにげないものに見えて、食べれば小麦のとろけに、ミルクのとろけが重なるめくるめくもので、しかも作り手の数だけバリエーションが存在する。単純であるゆえに奥深く、癖になる。そういえば、大友パン店の吉田さんは言っていた。

チロル外観

「高校の頃、昼休みに食べていたという人が、帰省したとき、また食べたいと言って買いにきてくれるんです」

 クリームボックスは郡山市民の心の中に住んでいる。いや、一度食べた人みんなの心の中にきっと。

>>続きはこちら

 

■大友パン店
福島県郡山市虎丸町24-9
024-923-6536
7:30~19:00(日祝は~18:00)
年中無休(年末年始とお盆は定休)

■ベーカリーロミオ イトーヨーカドー郡山店
福島県郡山市西の内2-11-40 イトーヨーカドー郡山店1F
024-939-1220
10:00~21:00
定休日 イトーヨーカドーに準ずる

■手作りパンの店 チロル
福島県郡山市菜根1-24-11
024-922-2912
10:00~19:00(祝日は~18:00まで)
日曜休

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら


>>このパンがすごい! バックナンバーはこちら

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

写真

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰

日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

[PR]

この記事を気に入ったら
「いいね!」しよう

PROFILE

池田浩明(いけだ・ひろあき)ライター

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

BOOK

『日本全国 このパンがすごい!』(発行・朝日新聞出版) 池田浩明 著

写真

連載をまとめた「日本全国このパンがすごい!」(朝日新聞出版)が待望の書籍化!北海道から沖縄まで全国の「すごいパン屋!」を紹介。ディレクターズカットを断行、エッセンスを凝縮し、パンへの思いもより熱々で味わっていただけます。
税込1,296円

今、あなたにオススメ

Pickup!