パリの外国ごはん

意外にも食欲刺激系。バングラデシュのおうちごはん「Paris Féni」

  • 文・写真 川村明子
  • 2019年1月15日

  

この連載も45回目になった。未開拓の外国料理を発掘することが少しずつ難しくなってきているものの、まだまだあるなぁと感じた今回訪れたのは、バングラデシュ料理の店だ。

パリ11区のオベルカンフ通り。商店街を横道に入ると、古物屋やパリ近郊産の花を主軸に扱う花屋、良質な食材をそろえるエピスリーもあり、買い物に出向くことの少なくないエリアで、ランチタイムに混み合っているカフェが1軒あった。

夏にはテラス席がにぎわい、寒くなると店内で席が空くのを待つ人たちがいる。ふつうのカフェだと思っていたのだが、あるとき窓際に近づいてみると、野菜がたくさん盛られたワンプレートごはんのようなものがどのテーブルにも見られた。働いているのは外国人だ。このお店なんだろう? と検索してみると、オリジナルサイトがあって、バングラデシュのおうちごはんと書かれていた。がぜん気になり出し、早速行くことにした。

  

ランチタイムの少し遅めに出かけたのだが、やはり待っている人たちがいた。それでも回転は早く、一人だったこともあり、すぐに席へ案内される。メニューを開くと、チャパティとビリヤニが目に飛び込んできた。チャパティには生野菜の料理がいくつかついてくるようだ。日替わりスープと料理もあり、それらは小さな黒板に書かれていた。チャパティとハリーム(煮込み料理)にはヴィーガンのお皿があって、へぇ~と思ったが、私はその下に書かれていた“スズキのココナツミルクとマスタードソース”“チキンカレー”に惹かれた。

それぞれバスマティ米と野菜料理が添えられるとある。かなり迷ったけれど、おそらく前に窓越しに見たのはビリヤニのプレートだったのだろう。寒かったし、炊き込みごはんに気持ちは傾いた。最終的に、日替わりスープは小ポーションでも頼めたのでそれと、チキンと野菜が具のビリヤニを頼むことにした。

周りのテーブルを見渡すと、野菜ジュースのようなものを飲んでいる人が多い。メニューにはカクテルがずらっと並び、たしかにフルーツの名前がたくさん書いてあったけれど、あれはお酒じゃなくてジュースのことだったのだろうか。そういえば私の前で待っていた人たちもオレンジ色の飲み物が入ったグラスを片手に待っていた。

50席近くあると思われる店内は満席だ。カウンター内には料理人が立ち、料理の仕上げをしているのか湯気が上がっていた。活気に満ちているのだが、それほどスパイシーな匂いは漂っていない。メニューでビリヤニのところには“ベンガル料理のスペシャリテ”と記されていた。ベンガル料理といえば、東インドとバングラデシュ一帯の料理を指すらしいが、あまりスパイシーではないのかな。

  

テーブルの横に掛かっているバングラデシュの地図が描かれたタピスリーを眺めていると、スープがやってきた。この日の具材は、ブロッコリーとポロネギ、それにレンズ豆。それらが具なのかと思っていたが、ポタージュ状になっていた。地味な色合いが手作り感たっぷりで、こういうスープはうれしいなぁとしみじみした。優しい味を想像してひと口食べると、カレー風味だ。

上にたっぷり散らされた、フライドオニオンとコリアンダーが、結構パンチのあるアクセントになっている。意外にも、癒やし系というよりは、食欲を刺激するタイプであった。おかげで徐々に体がぽかぽかしてきて、代謝が活発になったのかより空腹を感じた。ペイントが施されたアルミの器に盛られたバゲットをスープに浸して食べたくなったけれど、このあとごはんが出てくるしなぁと思い、控えた。

  

スープ皿が下げられるとすぐに出てきたビリヤニのプレートには、数種のおかずが盛り合わせられていた。おかずそれぞれの区切りはよくわからなくて、ちょっと、ごちゃっとした感じだ。なんだか親しみが湧いた。ごはんから食べてみる。パラパラの炊き上がりで、とても食べやすい。混ざっているのは、カリフラワー、にんじん、ズッキーニ、インゲン。そこに、生だけれど少しだけ熱を加えられている印象のきゅうりに、コールスローのような味付けのにんじんとキャベツのサラダが乗せてある。

添えられた、にんじんとキャベツの蒸し煮はクスクスに使われるマグレブ(北アフリカ)のミックススパイス、ラスエルハヌートのような風味で、鶏肉には爽やかなフルーツのソースがかかっていた。甘ったるさはなくおいしいのだけれど、それが何かはわからなかった。

思っていたよりコンパクトだな、と思いながら食べ始めたのだが、食べ終えるとおなかいっぱいになった。さらさらさら~と胃に収まっていく口当たりの軽いものであっという間に食べたからかもしれない。野菜がほとんどだったから、きっと夕方にはいい具合に消化できるだろう。

  

デザートは黒板メニューに書かれていた。それで改めて見てみると、デザートの上に“今日のカクテル”とあった。中身はカキ・オレンジ・ショウガ。これかぁ、みんなが飲んでいたのは! カキとオレンジがミックスされたジュースなんて飲んでみたかったが、食事の最後に体が冷えるのは嫌だなぁと思い、チャイをお願いした。

待っている間にもう一度メニューをもらい見てみたら、裏面にランチのセットが三つ載っていることに気づいた。そのどれにも、フルーツジュースが含まれている。ただ、ビリヤニはそのお得なセットになっていないこともわかった。

帰り際に聞いてみると、オーナーも厨房スタッフも全員バングラデシュの人で、答えてくれたサービス担当の彼だけがスリランカ人(北部のタミル族)なのだという。ビリヤニは野菜と一緒に蒸して炊き、チキンはローストして添えているのだそうだ。わからなかったソースは、ぶどうと判明した。

そのまま丼にもなりそうな、もしくはお弁当箱にも詰められそうな、こんなワンプレートごはんは大好物だ。次回はランチセットにして、気になって仕方なかったフルーツジュースから始めたい。

  

「Paris Féni」 パリ・フェニ
15bis, rue Ternaux 75011 Paris
01 48 05 08 85
12時~22時30分(日 ~22時)
月休み

■イベント開催します!
「eatrip morning ~パリの朝ごはん~」
昨年末に発売されました拙著『日曜日はプーレ・ロティ』の刊行を記念しまして、イベントを開催します。
野村友里さん主催のeatripにお邪魔します。

日時:1月19日(土)、20日(日)8時~9時半(L.O.)
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お料理のいくつかは、持ち帰ってきたお皿に盛り付ける予定です。もし気に入られたら、こちらもご購入いただけます。当日のメニューはこちらをご覧ください。


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PROFILE

川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

川村明子

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
日々の活動は、Instagram: @mlleakiko、朝ごはんブログ「mes petits-déjeuners」で随時更新中。

■川村さんからのお知らせ

12月27日に新刊が出ました。初のエッセイです。便利と少し距離を置いたパリの暮らしを食の観点から書きました。

日曜日はプーレ・ロティ -ちょっと不便で豊かなフランスの食暮らし-』(cccメディアハウス)
こちらのページに、目次や「はじめに」の章が掲載されています。ぜひご覧ください!

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川村明子(かわむら・あきこ) 食ジャーナリスト

写真

東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)
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室田万央里(むろた・まおり) 料理人

写真

無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
Instagram @maorimurota

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