生駒芳子エシカルごころ

人びとが考え、くつろぐ新たな居場所 武雄市図書館

  • 文 生駒芳子
  • 2014年2月14日

写真:佐賀県の武雄市図書館佐賀県の武雄市図書館

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 昨年の春の開館以来、メディアに次々と取り上げられ、注目を集める佐賀県の武雄市図書館を訪ねた。田園風景の中に、モダンな姿を際立たせる武雄市図書館に足を踏み入れると、そこには、公立の図書館というより、都会のお洒落な本屋に近いイメージが広がる。

 市立の図書館に民間企業の蔦屋書店とスターバックスが入り、官民の共同運営という新しい形をとっている。そのことに賛否両論巻き起き、騒然とした状態で開館したというニュースは記憶に新しい。報道番組で、樋渡啓祐市長が「いろいろな意見はありますが、とにかくスタートすることが大切です」と毅然とした態度で断言されていたことが印象的だった。

 私が訪れたのは平日だったのにもかかわらず、盛況だった。奥の学習コーナーには受験生と思われる学生たち、図書コーナーにはシニア世代の男女や子供連れの若い母親たち。TSUTAYAの販売コーナーには、デザイナーやクリエイターとおぼしきお洒落な若者たちなどがいて、来館者の幅は幅広い。

 武雄市図書館には、いままでの図書館にない点がいくつかある。まずは、飲み物を飲みながら本が読めるということ。ここのスターバックスにはひっきりなしに人が訪れる。全国の売り上げの上位にランクインすることもあるという。

 朝9時から夜9時までという図書館にしては長い開館時間も、利用者にはうれしい。仕事帰りに一杯飲むかわりに、図書館で本に触れて気分転換、という会社勤めの人たちの姿も見られる。

 また館内には、低く、静かなBGMが流れている。「逆に、こうした音楽があることで、くつろげるという声も多いです」と、館長の杉原豊秋氏。図書館のあり方の常識を超えるこれらの試みは、図書館にとってチャレンジングなことに違いないが、来訪者からのポジティブな反応が追い風になったという。

 「これまでの来館者は80万人を超えています。県外からお越しになる方が多いのも特徴で、ほぼ毎日、長崎からやってくるというご夫婦もいらっしゃいます」と杉原氏。小学生たちに向けて、図書館の司書の仕事を経験するワークショップや、読み聞かせのイベントなどもさかんに開催され、教育の新たな場としても定着している印象を受けた。

 かつての武雄市の図書館では、20万冊もの蔵書のうち約半数が日の目を見ることなく倉庫に眠っていたが、いまではそれらのほとんどが、壁を覆い尽くす巨大な書棚に並べられ、「旅」「食」などカテゴリーごとにわかりやすく分けられている。ずらりと書物が並ぶ、まるで本の宇宙のような風景に囲まれて、こうした風景は、人を癒すものだと改めて感じた。

 また、よく観察すると、スマホやタブレットをのぞき込んでいる人がとても少ないことに気づく。図書館や販売コーナーの本を手にとって読んでいる人の姿は、公共の場で携帯をのぞき込む人ばかりを目にする昨今、とても新鮮に思えた。

 ここは、人びとが本に出会い、考え、くつろぎ、癒される、社会の中での新しい形の“居場所”なのではないか。ショッピングや食事をする場所は世に山ほどあるが、「じっくりと考えにふけることのできる公共の場所」は今、あまり見当たらない。武雄市図書館は、じつは人びとが求めているような場所を、先取りして体現しているのではないだろうか。この未来的な図書館が、東京の我が家のすぐ近くにもあってほしい、と正直、思ったものだ。

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PROFILE

生駒芳子(いこま・よしこ)

ファッションジャーナリスト。『VOGUE』『ELLE』での副編集長を経て、2004年より『マリ・クレール日本版』編集長に就任。2008年11月独立後は、ファッション、アート、ライフスタイルをはじめ、社会貢献、エコロジー、社会起業、女性の生き方などについての講演をするほか、プロジェクトの立ち上げや、雑誌・新聞への寄稿などで幅広く活躍。クール・ジャパン審議会委員、公益財団法人三宅一生デザイン文化財団理事、NPO「サービスグラント」理事、JFW(東京ファッションウィーク)コミッティ委員等。エスモード・ジャポン、杉野服飾大学で講師、東京成徳大学経営学部ファッションビジネスコースの特別招聘教授を務める。


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