ニッポン人名鑑

<31>シネマに身を捧ぐ謙虚な情熱家 入江悠

  • 2015年11月2日

  

入江悠(いりえ ゆう)
映画監督
1979年11月25日生まれ

    ◇

 映画監督になる。10代半ばでそう決めてから、試行錯誤と自問自答を繰り返すこと10年。「この映画が成功しなければ、もう諦めよう」――

 背水の陣で自らの原点を見つめ直した作品『SR サイタマノラッパー』(2009年)がロングランヒット。現代を生きる人間のリアリティを生々しくもドラマチックに描き出し、いまや今後の日本映画界を担う存在に。映画製作で最も大事にしているのは、脚本に思いを込めること。人気マンガが原作の『日々ロック』(2014)でも、自ら脚本を手がけている。

「自分のパーソナルな部分と作品がリンクしていないと、僕自身がその物語を信じられなくなってしまうので、そういった要素をできるだけ脚本に入れていくようにしています。『日々ロック』は、さえない男がロックスターを目指して突き進んでいく話なんですけど、どこまでも不器用なのにロックが好きという気持ちだけはブレない、その泥臭さに好感をもちました。脚本ではそこに自分を投影して、オリジナルで付け加えた部分もありますね」

 演技のプロではない人物を起用することが多いのも、特徴のひとつ。本作もメインキャストの約半数はミュージシャンや新人の役者が占める。

「俳優は経験を重ねていくとさじ加減がわかってくるけど、素人の人は見たこともないようなことをするんです。ベテランの俳優が絡んでも思うように応えてくれなかったりして(笑)、それが逆にみんなにとって刺激になるんですよ。化学反応が起きたり、新しい発見があったりする」

 “映画だからできること”を追求し、謙虚に、丁寧に作る。穏やかな語り口から、映画への誠実な情熱が伝わってくる。

「最近、古い日本映画の傑作を名画座によく観に行くんですけど、なんでもっと早く観ておかなかったんだろうと思うものばかり。昔の映画監督には職人みたいに代々受け継がれてきたものがあって、僕らが映画を始めたときにはもう断ち切られていたんですけど、それがあった時代の映画はすごいなと。たとえば、スパイ映画『ジョーカー・ゲーム』を撮るにあたって改めて観た増村保造監督の『陸軍中野学校』も、複雑な話を約90分できっちりまとめていて、本当に手際がいい。僕もどうにか、昔の名作に対抗しうるような作品を作りたいですね」

(文・志村香織、撮影・松岡一哲)

「AERA」2014年9月29日号より

    ◇    

今のニッポン、これからのニッポンを支えるキーパーソンを紹介する『21世紀をつくるニッポン人名鑑』から転載します。

(次回は11月9日に配信予定です)

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