ウルトラの女神が語る「特撮DNA」

  • 記事提供:ORICON NEWS
  • 2018年11月16日
  • 『ウルトラQ』で江戸川由利子、『ウルトラマン』でフジ隊員を演じた“ウルトラの女神” 桜井浩子(C)oricon ME inc.

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    「僕らに創造と技術を与えてくれた“特撮”を、どうか助けてください」

     2013年5月、そんな悲痛なメッセージを発したのは、大の特撮好きで知られるアニメ監督・庵野秀明氏。そうした想いをメディアに発しなければならないほどに、昭和の時代に培われたミニチュアワークと光学技術による「特撮」技法が急速に失われているのだという。そんな中、日本に怪獣ブームを巻き起こした円谷プロが、伝説の特撮番組『ウルトラQ』に込めた想い、写真、映像、台本や関連資料などをまとめた新プロジェクト『ULTRAMAN ARCHIVES』をスタートさせた。そこで今回、『ウルトラシリーズ』の“女神”として活躍した、女優・桜井浩子にインタビューを実施。銀幕女優から特撮の世界に入った理由や、巨匠・円谷英二監督や奇才・実相寺昭雄監督とのエピソードなど、貴重な話を聞いた。

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    ■面食らった“映画”と“TV”の差「当時はTVだということに不満でした」

    ――1960年代、東宝の映画女優として活躍されながら、一時期モチベーションを失ったとお聞きしました。

    【桜井】「銀幕のスターになるんだ!」と思って東宝に入って、『スリー・チャッピーズ』の一人に選ばれたり、『お姐ちゃん三代記』(63年)にも出て、女優としてスター扱いもしてもらいました。でも女優としてスポットライトが当たると、私が考えていたのと全然違っていて、ただただ過酷でした。特につらかったのは、忙しすぎて食事が摂れないこと。

    ――当時の映画は娯楽の王様。想像を絶する忙しさだったわけですね。

    【桜井】忙しいのはありがたいことですが、「セリフはいつ覚えるの?」って当時は思ってました。今思えば“甘えの部分”なのかもしれませんけど、考えていた以上に映画女優の仕事は大変でした。それに『お姐ちゃん三代記』があまり良い成績ではなかったので、私の待遇も落ちてしまって。「この会社には居場所はないのかな?」って思っていた時に、「行ってらっしゃい、円谷さんに」と言われてオーディションを受けたんです。

    ――『ウルトラQ』のオーディションだと知っていたんですか?

    【桜井】それが、何のオーディションか知らされてもいなくて(笑)。数分のオーディションを2回したら「君に決まったよ」と言われて『ウルトラQ』(66年)への出演が決まりました。失礼な言い方ですけど、当時は映画に比べてTVだということは正直不満でした。でも、行ったところが『ウルトラQ』でよかった。“TVの世界”の方が水が合っていたんですね。

    ――予算も潤沢な映画の世界から特撮の世界に飛び込み、面食らったこともあったのでは?

    【桜井】座席のバネが飛び出してるロケバスにもびっくりしましたけど、ロケ先に行って些細なことで撮影中止になっちゃうのは驚きました(笑)。「何で中止なの?」って聞いたら、ロケ先で借りるはずだったお宅の人がいなかったって言われて、「それってどうなの!?」みたいな。でも、担当者が「悪い悪い」って謝って済んじゃっていて(笑)。映画の場合ならこんなことはあり得ませんから、びっくりしましたね。

    ■円谷プロはバンカラではみ出し者が集まる梁山泊「英二監督と一さんが実力で束ねていた」

    ――現場では、故・円谷一監督とご一緒されていますが、一監督の印象を教えてください。

    【桜井】円谷一さんは早くに亡くなられてしまったので、印象を語る人が少ないんですね。温かい包容力があって、「いいよ~」って何でも許してくれちゃうイメージ。とにかく器が大物。だから余計に、若い私には当時は一さんのことがよく分からなかったんです。

    ――父親のようなイメージでしょうか。

    【桜井】私は一さんに父性的な温かみを感じていました。それで言うと、一さんの父親である円谷英二監督はおじいちゃんみたいな印象(笑)。ちょっと怖くて近づき難いけど、どこか愛嬌があってかわいい(笑)。

    ――故・円谷英二監督は、現場ではどんな印象でしたか?

    【桜井】私は遠くから見るだけでしたが、円谷プロの特撮班は英二監督を中心にまとまっていて、英二監督が「ダメだ」と言ったら、スタッフ全員が帰るのも飲みに行くのもやめて作業を続けるくらい、全員が集中していました。英二監督に褒めてもらうなんて無理ですけど、ご本人に納得してもらえるものを作るために“結束”していました。

    ――当時の円谷プロは若いスタッフが多く、エネルギッシュだったと聞いています。

    【桜井】映画を作る東宝はいい意味でお行儀がいい。カチっとしていて弾けないし、破れない。それでいて監督も助監督もインテリ。円谷プロがインテリじゃないってわけじゃないんですけど、円谷プロはバンカラでちょっとはみ出した感じの人たちがいました。それを一さんや英二監督が束ねていた。

    ――先ほど父性という言葉が出ましたが、若い子を束ねるうえでそうした人柄が大事だったのでしょうか。

    【桜井】一番は“才能”ですね。そうじゃないと束ねられないと思います。大学卒業したばかりで活きのいいのが大勢いるから。そんな彼らを見ている一点は才能。一さんは演出の天才でしたから。晩年に、一さんと仲の良かった中川晴之助監督が「一くんは社長なんかやらなかったら長生きしたんだよ。お金の計算とか判子とかは似合ってないんだよ」と仰っていた。社長業をやらないで演出だけやっていれば、もっと長生きできたはずだと。でも、人の人生だからしょうがないですね。

    ■知られざる『ウルトラQ』放送危機!? 「怪獣路線が当たるかは誰にも分からなかった」

    ――演出といえば、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』でご一緒された故・実相寺昭雄監督が伝説的です。

    【桜井】実相寺さんはほんと変な人よ(笑)。当時、スーツを着ている人が現場に入るのは珍しかったんですが、実相寺さんは当時現場を干されていたんです。後年、その理由を聞く機会があって、「どうしてですか?」って聞いたら、TV番組で美空ひばりさんの耳の穴とか口の中を撮影して怒られたと。だから「何で撮ったの?」って聞いたら、ずっと撮っているうちに撮りたくなっちゃったんだって(笑)。とにかく変わった人でしたけど、スタッフからは慕われていました。人の懐に飛び込むのが上手い人。あれだけの鬼才だと現場がなかなか動かないけど、実相寺さんとはみんな面白がってやっていました。実相寺さんは英二監督の懐にも飛び込んでいましたから。

    ――『ウルトラQ』は社会現象となりましたが、当時の印象は?

    【桜井】撮影が始まってからしばらく時間が経つまで、現場には『ウルトラQ』が放送されるかされないか?という空気があったんです(※注 当初『ウルトラQ』は現在の番組制作状況と違い、放送日時やスポンサーなどを決めずに番組制作がスタートしていた)。その時、英二監督は今まで見たことがないような深刻な目をしていた。すごいナーバスになっていて、その目は私しか見てない。

    ――放送されない可能性っていうのはどういうところで?

    【桜井】私が拙い頭で思うに、怪獣路線に切り替わったから。『ウルトラQ』は当初、「これから30分、あなたの目はあなたの身体を離れ、この不思議な時間の中に入っていくのです」という石坂浩二さんによるナレーションが象徴するように、心霊現象がどうしたとか、空想性の高いSFみたいな話でした。だから最初は怪獣が出てこないシリーズの予定だったんですよ。そこから、怪獣路線への変更があって、それが成功するかどうかは、当時は誰にも分からなかったんです。

    ――では、撮影した話が放送されない可能性もあったと。

    【桜井】当時は何とも思わなかったんですけど、私もこの年になってようやく、あの時の英二監督の表情は、相当悩んでいたんだなって分かるんです。円谷プロで初めての作品が日の目をみないんじゃないかって。もし『ウルトラQ』がポシャったら円谷プロも立ち行かなくなるし、若い子たちが路頭に迷うことになる。だから複雑な顔をしていたんですね。

    ――そんな悩みがあっただけに、成功は嬉しかったでしょうね。

    【桜井】『ウルトラQ』が始まったら弾けるような笑い方をされておられました。英二監督は喜怒哀楽が表情に出ない人かと思っていたけど、その時はとてもかわいい顔をして笑っていましたよ。

    ―ー『ウルトラQ』の成功の理由は何だったのでしょうか。

    【桜井】みんなが同じ方向を見て一生懸命やったからじゃないでしょうか。私なんて、本当にお子ちゃまなお芝居をしていると思います。けど、江戸川由利子というキャラクターが登場していることで、子どもたちが由利ちゃんをフィルターにしてあの怖い世界を見られた。そうじゃないと怖くて見ていられなかったかも知れない。それは怪我の功名でしたね(笑)。

    ――いま、特撮界は昭和の特撮技術や資料の散逸が問題視されています。

    【桜井】そこは庵野(秀明)さんや樋口(真嗣)さん達も同じように感じています。それに、彼らは何より英二監督をリスペクトしていますから、その精神が彼らの創る作品の中にDNAとして入っている感じがします。英二監督の特撮の世界は確実に彼らに引き継がれていってるな、と思っています。

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