シネマな女たち

人と資料に誠実でいたい

  • 文 佐久間文子 写真 篠塚ようこ
  • 2013年10月7日
手にしているのは、戦後のパンフレットで一番古いものとされている、1947年スバル座上映の『アメリカ交響楽』

写真:笹沼さんの仕事道具の一部。細かく裂いた和紙や糊を使って、古い本の傷んだ部分を補修する。中央の竹ベラは、修復用の和紙を購入している「紙舗直」製のもの笹沼さんの仕事道具の一部。細かく裂いた和紙や糊を使って、古い本の傷んだ部分を補修する。中央の竹ベラは、修復用の和紙を購入している「紙舗直」製のもの

東京国立近代美術館フィルムセンター図書室司書 笹沼真理子さん

 フィルムセンターの図書室は国立の機関としては日本で唯一の映画専門図書館で、国内で刊行された映画資料の約8割を所蔵している。映画の本や映画祭のカタログ、パンフレット、雑誌、シナリオなどで、もちろん利用者が閲覧することもできる。笹沼真理子さん(42)はここで司書として働いて16年になる。

 司書は笹沼さん含め3人いる。「カウンターで利用者の問い合わせに応じるレファレンス業務のほか、書誌の作成、資料の収集、本や雑誌の修復などが私の主な仕事です。和紙や糊を使った補修や、糸綴じで修復する技術はフィルムセンターに来てから覚えました」

 収蔵する本は、書店から毎週送られてくる出版情報から選ぶほか、「幅広く網羅したい」と、地方の出版物、古書、私家版やミニコミにまで目を配る。もともと本好きだといっても、映画関係記事が多い発行部数15部のミニコミ「入谷コピー文庫」まで入れているというのにはびっくりした。古本屋や古書展にもしょっちゅう足を運ぶ。先日は、七夕古書市で東宝争議関連の資料を入手した。段ボールの奥に、ガリ版刷りの内部資料を見つけたときは思わず興奮したという。

 「図書室の本はほぼ毎日背表紙を見るので、うちにある本、ない本はだいたいわかるんです。4万冊の本があっても、初めて見る映画本や資料はまだまだいっぱいあるんですね。仕事をひととおり覚えた5年めぐらいよりいまのほうが、この仕事の奥深さ、自分がわかっていないことがわかるようになった気がします」

 昨年、翻訳が出た『ロバート・アルドリッチ大全』(アラン・シルヴァーほか著、国書刊行会)のあとがきでは、訳者の宮本高晴さんが笹沼さんの名前をあげ謝意を示している。アルドリッチ作品の公開記録について聞かれた笹沼さんが、それまで日本未公開とされていた「甘い抱擁」が短期間ではあるが公開されたことを当時の新聞にあたってつきとめ、情報提供したからだ。

 原資料にあたる大切さについては、小津安二郎研究の第一人者で映画・文化史家の故・田中眞澄さんから学んだ。センターの客員研究員でもあり、毎日のように図書室で調べものをしていた田中さんに声をかけられ、小津作品の多くを手掛けた脚本家野田高梧の山荘に残されたノートの、小津の自筆部分と小津にかかわる箇所を中心に翻刻した、『蓼科日記抄』(小学館スクウェア)の刊行作業にもかかわることになった。「小津の未公開一次資料」と話題になったものだ。

 大学では図書館学などを学び、「映画を学問として専門的に勉強したことはないのですが、フィルムセンターで働きながら学ばせてもらっています」と言う。本好き映画好きには「理想の職場」で、センターで特集上映される作品もできるだけ観るようにしている。

 「人と資料に誠実でいたい。ここにある資料には、個人が何十年もかけて苦労して集めた貴重なものもたくさんあります。資料をいかすも殺すも私たち次第なので、大切に保存しつつ、それを必要なかたにきちんとつなげるようにしたい、といつも意識します」


このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

PROFILE

佐久間文子

佐久間文子(さくま・あやこ)

1964年大阪市生まれ。朝日新聞でおもに文化、文芸・出版関係の記事を担当。2011年に退社しフリーに。「文藝春秋」「野性時代」「本の雑誌」などでインタビューや書評を執筆している。

エンタメニュース


Shopping

  • ダイバーシティープロジェクト