シネマな女たち

山田組で学んだことを残すために作り続ける

  • 文 坂口さゆり 写真 篠塚ようこ
  • 2014年1月10日
「塾生時代に可愛がってくださったキャメラマンの高羽哲夫さんが、『どんな形であっても映画界で過ごせることがうれしい(だから君もかくあれよ)』とおっしゃった。本当にその通りでした」

写真:脚本の執筆はMacAirで。「ずっとMacを愛用しています」。配られる脚本には通し番号が振られている。平松さんは山田監督の次! 一人に2冊配られるので、NO.003と004。「これがうれしいんです!」脚本の執筆はMacAirで。「ずっとMacを愛用しています」。配られる脚本には通し番号が振られている。平松さんは山田監督の次! 一人に2冊配られるので、NO.003と004。「これがうれしいんです!」

脚本家・映画監督 平松恵美子さん

 いつ頃からだったろう。「脚本・平松恵美子」の名前が気になるようになったのは。特にここ数年は、山田洋次監督作品を観るたびに、山田作品を支える女性脚本家としてのイメージがすっかり出来上がっていた。

 だが、平松さん(46)は言う。

「脚本家といわれるのは腑に落ちない。すごく居心地が悪いんです。もともと私は助監督として現場に入って、現場の本直しの相手としてつき合っていました。今でもその感覚がまったく抜けないんですよ」

 実際、新作「小さいおうち」でも脚本と助監督を務めた。生粋の山田組といった感じの彼女だが、そもそも映画の世界へ入ったのは強い志があったわけではない。

 岡山県出身。大学卒業後、2年で帰ることを約束して上京し、会社員生活を送っていた。だが、約束の2年が近づくにつれて「このまま岡山に帰っても……」という思いは膨らむばかり。映画好きの彼女はある日、映画館で松竹が募集していた「鎌倉映画塾」のチラシを見つけた。もともと「男はつらいよ」シリーズや小津安二郎監督作品など松竹映画が大好き。その撮影所で映画が学べる。しかも、第一期生募集だから内容は厳密に決まってないに違いない。期間も2年間とさほど負担ではない。映画の現場を見てみたいし、思い切ったことをしてみよう! と親に事後報告で学生になった。

 塾生として学ぶ中、山田監督の「学校」(1993年)で助監督の見習いとして現場を初体験。続く「男はつらいよ 寅次郎の縁談」でも応援を頼まれた。映画塾を卒業後、そのまま松竹大船撮影所で契約スタッフとして演出部に所属することに。「その後『男はつらいよ 拝啓 車寅次郎様』で声をかけていただいた。さすがに3回同じチームに加えていただくと、スタッフは大体同じですから、ズルズルと山田組に加えてもらったような感じです」

 だが、山田監督と話したのはずっと後。「怖い人」の印象が拭えず、山田さんに近しいキャメラマンの高羽哲夫さんや(脚本家・映画監督の)朝間義隆さんなどに可愛がってもらっていた。まともに話したのは現場初体験から5年後の『学校III』。脚本を打診されたのはさらに後だ。

 「学校シリーズの話を考えるなかで、私が実際に男子中学生に取材に行ったんです。そうしたら、山田さんが『君、シノプシス(あらすじ)書けよ』って。『えっ!?』と驚きましたが、とにかくまとめて持って行った。翌朝電話があって『読んだよ。面白かったよ』と。多分、その辺から平松は使えるかもと思い始めたんじゃないでしょうか(笑)。もっともそのシノプシスは映画化にはいたりませんでしたが」

 「武士の一分」「母べえ」「おとうと」「東京家族」、そして「小さいおうち」と山田監督との共同脚本を重ねてきた。新作は直木賞を受賞した中島京子の同名小説の映画化だが、これまでの山田作品とはかなり毛色が異なる女たちの映画になっている。

 「脚本は簡単ではありませんでした。本作は秘密に関する映画なので一番大事なことをしゃべらない。山田監督は本来、台詞の人。1つのことを3つくらいのバリエーションでしゃべるくらいですから、実際には映さない男女の関係を(黒木華と倍賞千恵子がダブルキャストで演じる)タキの目を通して描くことに腐心しました。また、ラストでは小説の一番大事なところを変えています。映画で同じように表現してもわかりにくかったからですが、最終的には原作の世界観へ着地させなくてはいけない。クランクアップぎりぎりまで本を直して考えました。ま、山田さんが考えていたんですけどね(笑)」

 脚本は普段、監督と平松さんと対話方式でつくり上げる。平松さんは監督の口から出てくる言葉を書き留める。監督に迷いや悩みが生じる時に意見が求められるという。

 「最近はそういうことが多くなってきたかな。山田さんの考えが進まない時にフォローできないと悲惨ですが(笑)、私も随分意見を言えるようになりました。脚本を一緒に書いていると発見があります。山田さんは結論が1本道では満足しない。人は楽な道を選びがちだけに、その姿勢を尊敬しています。まだ監督作は1本ですが、山田組で学んだことを残していくためにも、私はここで映画をつくり続けるしかないと思っています」


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PROFILE

坂口さゆり

坂口さゆり(さかぐち・さゆり)

東京都出身。生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画や人物インタビューを中心に執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な媒体に、「AERA」「Precious」「女性セブン」「プレジデント」など。著書に『バラバの妻として』『佐川萌え』。

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