世界美食紀行

魔女たちが集まる!? 伝説の山岳リゾート ドイツ(3)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2014年12月1日

写真:ゴスラーでもヴェロニゲローデでも見かけた魔女の人形は、おみやげの定番。魔除けの効果があると言われているそうですが、けっこうワルそうな顔をしている気も…… ゴスラーでもヴェロニゲローデでも見かけた魔女の人形は、おみやげの定番。魔除けの効果があると言われているそうですが、けっこうワルそうな顔をしている気も……

写真:ゴスラーの旧市街とともに世界遺産に登録されているランメルスベルク鉱山。現在は博物館として一般公開されていて、ガイドが同行するツアーで内部を見学できます ゴスラーの旧市街とともに世界遺産に登録されているランメルスベルク鉱山。現在は博物館として一般公開されていて、ガイドが同行するツアーで内部を見学できます

写真:人びとが集まるゴスラーのマルクト広場。1日4回鉱山の採掘シーンを再現した人形が現れるからくり時計の塔を眺められます 人びとが集まるゴスラーのマルクト広場。1日4回鉱山の採掘シーンを再現した人形が現れるからくり時計の塔を眺められます

写真:大量の塩とコリアンダーでフレーバーをつけるというゴーゼビールは、好みが分かれそうな個性的な味わい。甘口のアルトやピルスナーもあります 大量の塩とコリアンダーでフレーバーをつけるというゴーゼビールは、好みが分かれそうな個性的な味わい。甘口のアルトやピルスナーもあります

写真:なんとも愛らしいヴェロニゲローデの市庁舎。夜になると町中に黄色い灯りが点り、おとぎの世界に迷い込んだようなロマンチックな雰囲気に包まれます なんとも愛らしいヴェロニゲローデの市庁舎。夜になると町中に黄色い灯りが点り、おとぎの世界に迷い込んだようなロマンチックな雰囲気に包まれます

写真:ヴェロニゲローデの宿泊施設は、家族経営でアットホームな雰囲気のところが多いよう。ハムやチーズ、パン、ホットチョコレートなどボリュームたっぷりの朝ごはんがついています ヴェロニゲローデの宿泊施設は、家族経営でアットホームな雰囲気のところが多いよう。ハムやチーズ、パン、ホットチョコレートなどボリュームたっぷりの朝ごはんがついています

写真:高台にそびえ立ち、ヴェロニゲローデの町を一望するヴェロニゲローデ城。19世紀に大改装されたそうで、現在は博物館になっています 高台にそびえ立ち、ヴェロニゲローデの町を一望するヴェロニゲローデ城。19世紀に大改装されたそうで、現在は博物館になっています

 ベルリン中央駅から電車に乗って約2時間30分。“魔女伝説”で知られるハルツ山岳地方へ足を延ばしました。東京から箱根までレジャーに出かけるような感覚でしょうか。ベルリナー(ベルリンの人)たちが週末のショートトリップを楽しむそうです。目的地は「ブロッケン山」。光による自然現象「ブロッケン現象」がよく見られるスポットで、山の名前がつけられたとか。

 毎年4月30日には、魔女たちがほうきに乗って山頂に集まるという言い伝えがあり、ふもとの町ではお祭りが開催されます。ブロッケン山の標高は1142mと、それほど高くはないのですが、1年のうち250日以上は霧に包まれるという幽玄な雰囲気。魔女伝説にぴったりの幻想的な山です。

 現在は、豊かな緑のなか、植物を観察しながら散策するハイキングコースが整備されていて、夏季や週末は多くの人たちでにぎわっています。けれども冷戦時代、ブロッケン山の山頂は東ドイツの軍事拠点で、山の西斜面には西ドイツの軍事施設が建ち並んでいました。一般市民の立ち入りは禁止され、近づくことも許されなかったそうです。

旧西ドイツで味わったビールと中国料理

 13世紀の趣きを残したふもとの町「ゴスラー」は、鉱山の採掘によって発展した小さな町です。私が到着したのは、ちょうどお昼どき。町の中心部「マルクト広場」には、色とりどりの野菜やシャルキュトリ(食肉加工品)、魚、サラダ、焼きソーセージなどを売るフードトラックが並び、人びとが集まって、広場に置かれたベンチやテーブルで食事をとっていました。

 「小路を1本入れば、中国人がやっている中国料理のテイクアウトもありますよ」と教えられ、訪ねてみると、そこはベトナム人夫婦が営む中国料理店でした。社会主義のベトナムと関係が深かった旧東ドイツにやって来たものの、西側のほうが自由に起業しやすかったため、東西の国境に位置して、旧西ドイツに属するゴスラーに移ったのだそう。ベルリンでいま人気のタイ料理や韓国料理、日本料理といったアジア料理店を、ベトナム人が経営していることが多いといいます。

 また、ハルツ地方には、塩とコリアンダーを加えた独特の味わいをもつクラフトビール「ゴーゼビール」があります。中世に生まれたこのビールは、ゴスラーが発祥地。けれども分断時代に、西側だったゴスラーでは、ビールに副原料を使ってはいけないという「ビール純粋令」が適用されたため、ゴーゼビールをおおっぴらに醸造できなくなったとか。ゴスラーに隣接した旧東ドイツ領のエリアで、技術は受け継がれたそうです。

絵本から抜け出したような、かわいい木組みの家

 屋台で買い食いして、ビアホールで地ビールを1杯飲む。観光客なら誰でもする、そんなごく普通の食べ歩きでさえ、東西の冷戦時代の歴史をまざまざと感じさせられるハルツ地方。旧西ドイツ領のゴスラーを後にして、わたしはブロッケン山の入り口の町、旧東ドイツのヴェロニゲローデを目指しました。

 とんがり屋根のカラフルな木組みの家が、石畳みを挟んでぎゅっと並んでいるさまは、まるで童話の挿し絵をそのまま再現したよう。家のなかに入ると平衡感覚が狂った気がする「シーフェスハウス(傾いた家)」や「いちばん小さい家」「いちばん古い家」など、町のあちらこちらに見どころがたくさん。いくつかは店やカフェになっていて、通りを歩くだけでも楽しい町です。

 かわいい建物のうち、いくつかは小規模な宿泊施設になっていました。私が泊まった「ホテル ヨハネスホーフ」もそのひとつ。レストランのない、こじんまりしたB&Bです。ヴェロニゲローデの宿泊施設は、こういうタイプが多いそう。木組みの家の小さなお宿は、いまでは旅行者を惹き付ける魅力のひとつになっていますが、大型ホテルがない理由は、旧東ドイツだったので、外資系の大型資本が参入しなかったためだそう。

 ベルリンの壁が崩壊して25年。東西に分断された史実のほんの切れっ端を、肌で感じる旅になりました。

取材協力:ドイツ観光局レイルヨーロッパ

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PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道〜乗っ旅、食べ旅〜」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。


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