世界美食紀行

民族ドレスで“お姫さま”ごっこ パレスチナ(3)

  • 文・写真 江藤詩文
  • 2016年1月8日

写真:リアナ(右)にパレスチナ・メイクをしてもらって記念撮影。右からベツレヘム、パレスチナ本部があるラマッラ、ベドウィンの民族衣装(これが私)。ベドウィンテントでコーヒーセットを借り、ン十年ぶりにおままごとです リアナ(右)にパレスチナ・メイクをしてもらって記念撮影。右からベツレヘム、パレスチナ本部があるラマッラ、ベドウィンの民族衣装(これが私)。ベドウィンテントでコーヒーセットを借り、ン十年ぶりにおままごとです

写真:パレスチナ人が愛するオリーブの葉をモチーフにしたシルバーアクセサリー。本物のオリーブの若葉を庭で摘んで型を取っています。女性デザイナーが自宅を兼ねたスタジオで、ひとりで丁寧に手づくりしていました パレスチナ人が愛するオリーブの葉をモチーフにしたシルバーアクセサリー。本物のオリーブの若葉を庭で摘んで型を取っています。女性デザイナーが自宅を兼ねたスタジオで、ひとりで丁寧に手づくりしていました

写真:オリーブの木工細工は宗教にまつわる伝統的なもののほか、カトラリーや小物入れ、キャンドルスタンド、花びんなど生活シーンに溶け込む雑貨も登場しています。ぬくもりのある質感で、すべすべして触り心地がいい オリーブの木工細工は宗教にまつわる伝統的なもののほか、カトラリーや小物入れ、キャンドルスタンド、花びんなど生活シーンに溶け込む雑貨も登場しています。ぬくもりのある質感で、すべすべして触り心地がいい

写真:「ホッシュ アル シリアン ゲストハウス」はパレスチナ・スタイルの朝食つき。焼き立てのパンとコーヒーのほか、ヒヨコ豆と胡麻のペーストやエクストラバージンのオリーブオイル、チーズなどヘルシーなものばかりが並びます 「ホッシュ アル シリアン ゲストハウス」はパレスチナ・スタイルの朝食つき。焼き立てのパンとコーヒーのほか、ヒヨコ豆と胡麻のペーストやエクストラバージンのオリーブオイル、チーズなどヘルシーなものばかりが並びます

写真:ホテルはレストランを併設していますが、わがままなリクエストにも対応してくれます。この日は野菜づくしの前菜と地ビール、ローカルワインを注文し、メインのケバブは近所で有名なお店のものをテイクアウトしてきました ホテルはレストランを併設していますが、わがままなリクエストにも対応してくれます。この日は野菜づくしの前菜と地ビール、ローカルワインを注文し、メインのケバブは近所で有名なお店のものをテイクアウトしてきました

写真:まるでヨーロッパのプチホテルのような「ホッシュ アル シリアン ゲストハウス」の吹き抜けのガーデンラウンジ。屋内のレストランにもテーブルがありますが、食事はここでとるのが気持ちよくておすすめです まるでヨーロッパのプチホテルのような「ホッシュ アル シリアン ゲストハウス」の吹き抜けのガーデンラウンジ。屋内のレストランにもテーブルがありますが、食事はここでとるのが気持ちよくておすすめです

写真:私が泊まった最上階の客室。石造りの邸宅を改装しているため、エレベーターがなかったり水回りがちょっと使いにくいなど、クラシックホテルならではの気になるところはありますが、天井が高く開放感があり、すみずみまで清潔でした 私が泊まった最上階の客室。石造りの邸宅を改装しているため、エレベーターがなかったり水回りがちょっと使いにくいなど、クラシックホテルならではの気になるところはありますが、天井が高く開放感があり、すみずみまで清潔でした

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 目の前に溢れ出す、鮮やかな色、色、色……。

 薄紙のようにやわやわと頼りない紗の布に、赤やグリーンの単色で素朴なステッチが施されていたり。かと思えば、ぎゅっと目の詰まった持ち重りのする濃紺のコットン地に、クレパスをばらまいたようにカラフルな原色が飛び散っていたり。

 ここは、年代もののアンティークから最新デザインまで、パレスチナの民族衣装のドレスが揃う専門店。「いまはパレスチナとしてまとまっていますが、かつては現在の街である集落ごとに異なる文化があり、刺しゅうなど美しい手仕事を受け継いできました」。“料理のできないベツレヘムっ子”として前回のコラムにも登場した案内役のリアナが教えてくれました。

 パレスチナの観光地では、ムスリムの女性でも全身を覆う黒いアバヤ姿はほとんど見かけません。ざっくりニットやショートコートにスキニージーンズやレギンスを合わせ、大ぶりのアクセサリーをつけてかかとの高いブーツで闊歩するといったファッションの女性をよく見かけました。リアナも、黒いレギンスが綺麗な脚のラインを際立たせ、彫りの深い顔立ちに、カラーストーンの付いたシルバーアクセサリーがよく似合っています。

パレスチナ・メイクでコスプレに挑戦

 そんな今どきのカジュアル上手なパレスチナの女性たちですが、一方で、自分たちのルーツである伝統的なデザインもいま見直されているそうです。クラシックな模様を現代風にアレンジしたポーチやパスケースといったお土産にもよさげな雑貨や、おしゃれ着になりそうなワンピースもかわいいのですが、代々伝わるアンティークのドレスは、やはり圧倒的な存在感を放っています。「着用して記念写真を撮ってもいい」というお店のスタッフに甘え、にわかコスプレ大会と相成りました。

 試着室で、メイクもバッチリ決めるリアナ。ファンデーションは薄づきですが、チークはしっかり入れ、口紅はマットな質感。太いアイラインで大きな目をさらに大きく見せるのが、パレスチナ女性のメイクの基本みたいです。

 刺しゅうと並んでこの土地に根付いている伝統工芸のひとつが、オリーブの木を使った木工細工です。オリーブは、実を食べ、油を取り、幹や枝は生活用品に使うなど、パレスチナの人々の生活に欠かせない存在。いくつもある工房のひとつをのぞいてみると、天使やハートを象ったクリスマスツリーのオーナメントや、キリストの物語を表現したウッドハウスなどを、10人ほどの職人が手作業でつくっています。この道何十年という苦み走った職人たちのなかに、20歳そこそこのまだあどけない見習いも混ざり、ちょこまかと走り回っていました。

かわいい隠れ家ブティックホテル

 ショッピングバッグを抱えて、日暮れを前にオレンジ色の灯りに包まれはじめた石畳の街をぶらぶら歩きました。私が泊まっているのは、広場につながる目抜き通り(といっても幅3メートルくらいで車も通らない)を一本入った裏路地にある「ホッシュ アル シリアン ゲストハウス」。フランス育ちのパレスチナ人オーナーが、地元の豪商の古い邸宅をリノベーションした、小さなホテルです。

 緩やかな坂になっている目抜き通りを3分下ればメイン広場、4分上れば生鮮食品が中心の市場があり、毎朝6時ごろから昼過ぎまで賑わっていました。40種類ほど並んだ野菜や果物はほとんどが地元産で、世界のトレンドにもれず、パレスチナでもオーガニック野菜が流行りはじめているそうです。「ベツレヘム郊外にはきれいな湧き水があるから、そのおかげでオーガニック野菜をつくれるんだよ」と青果売りの人。水道はイスラエルが管理していて断水などもあることから、いつでも自由に使える井戸水や湧き水が重宝されているのだそう。甘〜いみかんをいくつか手渡してもらいながら聞いたなにげないエピソードが、胸に沁みます。

 目抜き通りを2日も行き来すれば、両側に並んだ土産物屋の軒先でやる気のなさそうに座っている売り子たちは、顔を覚えてくれるみたいです。「次の曲がり角がきみのホテルだよ。また明日ね」。ひとりの売り子がそう言って、煙草を挟んだ手を挙げました。

■取材協力:JICAパレスチナ事務所

PROFILE

江藤詩文(えとう・しふみ)

トラベルジャーナリスト、フードジャーナリスト、コラムニスト。その土地の風土や人に育まれたガストロノミーや歴史に裏打ちされたカルチャーなど、知的好奇心を刺激する旅を提案。趣味は、旅や食にまつわる本を集めることと民族衣装によるコスプレ。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道〜乗っ旅、食べ旅〜」シリーズ3巻。「江藤詩文の世界鉄道旅」を産経ニュースほかで連載中。

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