希望のコットン

農薬漬けのインドの綿農家を救えるか ep.2

  • 短期連載「希望のコットン」
  • 2013年7月31日
目を輝かせる村の子どもたち (写真はすべてKURKKU提供)

  • 目を輝かせる村の子どもたち (写真はすべてKURKKU提供)

  • 4WD車2台でマディア・プラデシュ州に入った

  • 道路の脇を歩く荷を積んだラクダや牛たち

  • 広大なインドの綿花畑

  • インドの風景

  • 夕暮れのようす

  • 未舗装の道を6時間、車を走らせた

 夏の音楽イベント「ap bank fes」でオーガニックコットンのTシャツ販売を仕掛けた江良慶介(37)は、生産地であるインドへ向かうことにした。香港経由でムンバイに入り、伊藤忠商事の現地スタッフらと合流した。

 未舗装の道路を4WD車で走ること6時間あまり、ようやく小さな村に着いた。インドの綿花ベルト地帯、マディア・プラデシュ州。道路の両脇には虫除けになるとされるニームの木が並び、荷を積んだラクダや牛がのんびりと行き交う。見渡すかぎり、畑と粗末な家しかない。

 車から降りると、珍しい客人を取り囲むように村人たちが集まってきた。まもなく、太鼓や笛が鳴りはじめた。キラキラと輝く目をした子どもたち。笑みをたたえた大人たち。学生時代に訪れたときは観光地にしか足を運んだことがなかっただけに、江良は暮らしの息づかいに触れてワクワクした。

 歓迎の祭りが終わると、村の広場を離れ、栽培農家を訪ねることにした。ふと見ると、民家の軒下にドクロマークが付いた農薬のボトルが置かれている。畑では、農薬をまいているそばの井戸で、子どもや老人たちが水を飲んでいる。そこに、荒れた肌に黒い斑点が浮き、腕に大きなこぶのある人の姿があった。

 虫のつきやすい綿花は、農薬を使わずには栽培できないという。現金収入が乏しい農家は、借金をして種と農薬をセットで購入する。でも、自然災害や害虫などによって収穫量が落ち込めば、待っているのは地獄だ。公的な金融機関がなく、50%とも言われる高金利のヤミ金融から借り入れているため、借金苦による自殺が後を絶たない。農薬の影響か、皮膚病や内蔵疾患に苦しむ人も少なくない。そのうえ、農薬を使うと地中の微生物が減って土壌がやせ、生産量も減る。そんな悪循環が続いているのだという。

 すべての問題の根源は「農薬」にある――。畑のまわりで無邪気に遊んでいる子どもたちを見ながら、江良は思った。すぐにでも、農薬を使わない栽培に切り替えていくことができないのか。深い考えもないまま、ある農夫に声をかけた。

「オーガニックコットンの栽培をやってみたらどうだろう」
「なんでそんなことをやらなきゃいけないんだ」

 農夫は即座に首を振り、こう続けた。

「オーガニックコットンとして認められるには、少なくとも3年間、薬品を使わずに栽培しなければならない。そうすると虫がついて生産量が2、3割は減ってしまう。そうなったら、とてもじゃないけど生活できない」

 とくに、人を雇って綿花づくりをしているような大規模農家ほど農夫たちの健康被害に関心が薄いようで、リスクを冒してチャレンジしようとまでは考えない。反応は思わしくなかった。

 インドの農家が置かれた状況を変えるのは簡単ではない。それでも、オーガニックコットンの商品をもっと多くの人に手に取ってほしい。農薬をやめて、素材の安全だけでなく、生産者の暮らしも守れるとなれば、日本の消費者に歓迎されるだろう。

 江良はインド南部のコインバトールにある紡績工場へ向かう飛行機の中で考え続けていた。「なんとか、農家を説得できないだろうか」。そう漏らすと、伊藤忠のスタッフは即答した。ひとひねりしないと難しいでしょう。それでも、と江良は思った。

「農家の人たちは、いまのシステムを変えてまで挑戦するつもりはないのだろう。でも、持続可能な環境づくりや新しい価値を生むことが僕の仕事だ。ビジネスになるような枠組みを考えればいい」

 飛行機を降りると、江良は口を開いた。それが新たなチャレンジの始まりだった。=敬称略(つづく)

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