山崎亮 〈ハタラク〉をデザインする

「働き方革命」の風を起こすのは、誰か? 駒崎弘樹(4)

  • 駒崎弘樹×山崎亮(4)
  • 2013年9月5日
  

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 人は何のために働くのか。どう働いたらシアワセにつながるのか――。コミュニティデザイナーの山崎亮さんがホスト役となり、ハタラク・エキスパートたちとの対話を重ねる、連続対談「〈ハタラク〉をデザインする」(&編集部主催)。7月30日に開かれた第1回のゲストは、認定NPO「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹さん。病児保育や待機児童といった社会的な課題の解決に取り組む一方、新しい働き方を実践・提案している。120分近い対談の終わりの質疑応答で、2人は、働き方をめぐる新しい幸福、豊かさについて語った。

山崎亮 残り時間も少なくなってきました。最後に会場から、質問を受けたいと思います。

参加者 よく「ワークライフバランス」と言われますが、仕事と生活という大きいくくりで分けると、「稼ぐ」ことと「使う」ことと、二つの比重をどうするかという問題につながっていくと思います。生きていくためにはお金が必要だから、そのために働いて稼ぐわけですが、これまでの日本社会はあまりにも「稼ぐ」ほうに比重を置きすぎちゃったので、肝心の「使う」、つまりライフのほうの意味を見失ってきちゃったんじゃないかなと思うんですね。この両者は、対立軸になるのではなく、合わせたうえで人生ができあがるということになるので、ワークライフバランスという言葉が私にはいまひとつ、しっくりこないのですが、そのあたりのところを教えていただけますでしょうか。
 それから、「稼ぐ」ことだけではなく、「使う」ことも重視していくには、どうしたらよいのでしょうか。

「ワークライフバランス」の真の意味

駒崎弘樹 ワークライフバランスというと、ワークとライフとが対立軸に置かれているような感じ方をされる人もいるのかもしれません。バランスというのは、調和させるラインを考えるということで、かならずしも、5対5にせよ、ということじゃないんですね。人生のある面においては、ワークが9でライフは1という人がいてもいいし、あるいはその逆であってもいい。でも、その時、その時、人生のあらゆる局面において、どちらをどれだけにするかが選択可能であるかどうか、というのが非常に重要で、それが「ワークライフバランス」という言葉の意味なんですよね。
 もともと、ワークライフバランスという言葉は、欧米の経済界からの要請で出てきた考え方なんです。たくさんの物を安く売る、では外国に勝てない。アメリカやヨーロッパは、基本的には、安い物の多くを日本をはじめアジアの労働者に加工させてきたので。じゃあ、どういう労働者がいい労働者かと考えていった時に、「付加価値をつけてくれる労働者」がいいということになった。そうすると、その労働者を、工場に夜遅くまで拘束してイノベーションを起こしてくれるかといえば、そうじゃない。そこで、この考え方を進めることによって革新を起こしていこう、という新しい方策を打ち出したんです。
 それが、ひたすら働いて安いものを大量に、というものづくりをしてきた日本でも、この考え方を導入していかなきゃならんとなって、欧米に追いかけて輸入し始めたんですね。そういう意味では、「ワークライフバランス」というのは仕事のイノベーションとか、生産性みたいなことを追求する考え方に近いということを、お伝えしておきたいと思います。「ハードワーク・ハードライフ」でいきましょう。

参加者 自分も一歩踏み出さなきゃいかんという気になってきました。ただ、感じたのは、こんなふうに勇気を持って改革に踏み出せるのは、やっぱりある程度、選ばれた有能な人間に限られるのではないかということです。
 たとえば、おふたりは「モノに執着も関心もない」とおっしゃっていましたけれど、世の中のほとんどの人はモノに関心があって、お金も欲しい。若い人たちの中には、おふたりのような価値観に同調する人もいるかもしれなけれど、割合としては多くはないのではないかと思うのです。日本の社会が、おふたりが提言される方向に向かっていけば、きっと、ものすごく素晴らしい未来になっていくんじゃないかと思う一方で、果たしてそれがマジョリティーになるのだろうか、というのが僕の疑問です。
 未来工業という中小企業の成功例は、じつに稀な例でしょう。山崎さんの事務所でも、100人の応募者のうち結果的に98人はついていけない、ということですよね。裾野が広がるには壁が大きすぎる気がするんです。そんな壁を突破するためにはどうしたらいいのでしょうか。

山崎 ほとんどの人は、まだカネやモノに執着してるんじゃいないか、と。これが今後、マジョリティーになるのかどうか。そうなってほしいとは思うが、今後の展開はどうなるんでしょう。また、それを実現するためにどうしたらいいのかということですね。はい。駒崎さんにお聞きしようと思います。

「1万分の1」が変われば、変革は起きる

駒崎 ご質問は、そもそも1億2千万人がみんなで変わらなきゃいけないっていう考えがベースになっていますよね。でも、そんな時代は、歴史上これまでにもなかったと思うんですね。
 たとえば、僕は歴史オタクなんですけれども、日本がもっとも変わった瞬間の一つとして、明治維新がありますよね。でも当時の日本の人口って、どれぐらいだったか、皆さんご存じですか。答えは4千万人です。あの当時、明治維新を起こした原動力は、志士と呼ばれる人たちですね。坂本龍馬のようなメジャー級じゃない、横綱級じゃなくて、小結級の人も含めて、志士たちは何人ぐらいいたでしょうか。

参加者 千人ぐらいですか。

駒崎 僕はオタクなので、数えたんです。約4千人ぐらいです。そう考えると、4千万人分の4千人。1万分の1なんです。今の日本の人口に換算し直すと、だいたい1万2千人ぐらいですね。変革を起こす人は、そのぐらいの人数でいいんです。
 1万2千人が死ぬ気で変革を求めて行動することによって、何らかの革命が起きる。だとすれば、別にそんなに、ものすごくたくさんの人が変わらなくても、全員が一丸で「よいしょ」って変えるような大掛かりなものじゃなくても、変革って起こせるんじゃないんですかね。一部の人たちから勝手にどんどん変わっていって、いつのまにか時代もそのように変わっていく。僕が抱いている変革とは、そのようなイメージなんです。
 だから、もし、皆さんが望むのであれば、その1万2千人のうちの1人になっていただきたいですし、そうすることによって、この国が少しでもよくなっていくんだということを信じています。それに、何よりも、そういう未来を思い描くことが僕は楽しいですね。だから、同じように楽しく働きませんかという輪を広げていきたいです。

山崎 なるほど。1989年に暉峻淑子さんが『豊かさとは何か』という本を書いていますね。ドイツで留学してきた暉峻さんが、ドイツの人たちは昼間にサラリーマンが公園でのんびりと読書をしたり、昼寝をしたりしている光景を見てきて、こういう生き方が豊かなんじゃないかと、日本に紹介したわけです。あれがちょうど、「豊かさ」をテーマにした言説がブームになった、一番最後ぐらいの時期かな。ところがバブル景気に吹き飛ばされて、埋もれてしまったんですけれど。
 豊かさといったら、どうしても、カネやモノをたくさん持っていることという印象が、ぬぐいきれなかった。だから、外国を見てきた知識人が、「真の」豊かさなどと銘打って、カネ、モノではないところの価値を広めようとした。なかなか広まらないので、それならこれを「幸福」と呼び始めたらどうかということで、今度は幸福論とタイトルをリニューアルした言説がたくさん出てくるようになったのだと、僕は理解しています。
 ちょうど、ブータンのワンチュク国王も、幸福は何からできているかと言い始めて、幸福論ブームに火をつけた。カネだけじゃない、モノだけじゃないね、という問いかけですね。それぞれの人が、自分自身に照らし合わせて、幸福が何からできているかということを問い直すようになってきた。これは、国全体の幸福の指標としても、GNPとかGDPとはまた別のところにあるでしょう、というような研究が盛んになって、国の豊かさや個人の幸福度合いというのは、必ずしもお金とモノではないということが明らかにされてきたわけです。
 ご質問は、この動きが、どれぐらいまで広がっていくんだろうねということだったと思いますが、明治維新の時みたいに1万分の1の人たちが国の仕組みから何から、全部変えてしまおうということになると、ちょっと大変です。
 ただ、駒崎さんがさっきおっしゃったとおり、「そうしたい」というふうに思って、行動に移すということが大事ですね。どうせ広がらないんだったら、やめておこうという方向性にいくのではなくて、そっちが楽しいと思えるから変える方を選ぶんだよ、という人がじわじわ広がり、行動が積み上がって膨れあがっていく。僕なんかは、そっちの方の可能性に期待したいですね。
 最後に、駒崎さんから、メッセージをお願いします。

駒崎 今日は本当に、皆さんと「濃ゆい」時間を過ごさせていただきました。ぜひ、この働くということを、もう一度考え直していただきながら、考えるだけじゃなくて、明日から何か試せるチャレンジを、一つでも実践していただけたらなというふうに思います。みなさんが一歩踏み出していただいて、そして少しでも皆さんの働き方が変わり、皆さんの幸福度が増すことを心から願っています。今日はどうもありがとうございました。

山崎 どうもありがとうございました。

(第5回〈特別編〉は9月12日に掲載予定です)

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