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「花のない花屋」

花のない花屋

書籍発売記念インタビュー

今年4年目を迎えた人気連載「花のない花屋」が
一冊の本にまとまりました。
200を超える数多くのエピソードの中から、
今回は100のエピソードと100の花束を掲載。
書籍化を記念し、東さんに改めて
“花を贈る”意味についてうかがいました。
写真=大野洋介(朝日新聞出版・写真部) 取材=宇佐美里圭

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INTERVIEW

花は生まれてから死ぬまで、人間に寄り添うもの

──改めて過去の連載を見返すと、本当にいろいろな花束があります。ストーリーの数だけ花束があり、どれ一つとして同じものはありません。面白いのは、花を見るとエピソードを思い出し、エピソードを読むと花が思い浮かぶことです。
東 信(以下、東)
 僕らが作る花束は“心象風景”なんです。特に震災以降、モノではなく花を贈る人が増えたと感じているのですが、花は消えてなくなるからこそ、心に残る贈り物なんです。だから、贈り手の思いに寄り添い、それを花で表現しようとしています。最近よく思うのは、もっとよく見て、もっと心で感じようよということ。いまこうしている瞬間にも、多くの人が何かあるとスマホを取り出し、写真を撮ったりしていますよね。でも、それってナンセンスだと思うんです。カメラではなく、“心でとらえる風景”もあります。この連載を通して、改めて僕らは“心に残るもの”を作っていきたいと思いました。

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──連載では、お祝いの花、励ましの花、悲しみを癒やす花などいろいろな花束がありました。
 お店のオーダーでは、やはりお祝いの“ハッピーな花束”の注文が多いんです。でも、花の役割って本当はそれだけじゃない。花は生まれてから死ぬまで、人間に寄り添うもの。言葉にならない悲しみを癒やす花、苦しみに寄り添う花もある。それが花の本質です。この連載ではそれを確認できたのがよかったですね。

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──以前、縄文時代の遺跡から死者を弔う花が見つかっている、という話を東さんからうかがいました。
 そう。つまり、一万年以上前から人間には花を死者に手向けるという習慣があったということです。やはり、花は人間の本能にうったえる何かがあるんじゃないでしょうか。脳やDNAに関係するという説もありますが、どちらにしろ、花は“命の縮図”なんだと思います。朽ちるからこそ、愛おしくなる。人間の死生観を写し出しているんです。
──「枯れる姿が美しい」ということも、よくおっしゃっています。
 いつもどう枯れていくか想像しながら作っています。作品にしたときに、その世界観の中である程度枯れる姿をコントロールしたいと思っているんです。作りながら、“どこから枯れていくのか”が頭の中で見えています。

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子どもにこそ、本気で、本物を贈りたい

──これまでのアレンジを見ると、“つぼみの花束”、“ドライフラワーになる花束”、“植え替えて残せる花束”、“枯れたときに後ろの花が見える花束”など、時間の経過とともに変化を楽しむ花束も多くありました。
 時間も作品の一部なんです。花は命だからこそ、朽ちていくまでの姿を含めて作品なんです。

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──そして最後は跡形もなく消え去る……だからこそ特別な存在なんでしょうね。ところで、子どもに花を贈るときは、いつも以上に気持ちが入っているのが印象的でした。
 子どもに贈るときは、僕は“容赦”しません(笑)。子どもにこそ本物を見せたいんです。だから、いわゆる“子ども向け”には作らないし、つい自分の思いをダイレクトに花に込めてしまいます。だって、ひょっとしたら人生で初めてもらう花束になるかもしれないんです。ドカーン!ときたものは、一生記憶に残りますよね。だからこそよけいに気を使います。

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──「あのときあの人に花をもらった」という記憶はかなり残ります。東さん自身はそういう思い出はありますか?
 初めてもらった花束はよく覚えています。19歳のとき、福岡のレストランでアルバイトをしていたんですが、送別会で先輩が白いユリの花束をくれたんです。紫の紙で包装されていて……。僕は男3人兄弟の末っ子で、当時は花とは無縁の生活でした。でも、そのときは「しゃれているなあ」と強烈に印象に残りました。純粋にうれしかったですね。今は花屋になったので、人から花をもらうことはほとんどなくなってしまいましたけど(笑)。
──花をもらって嫌な気持ちになる人はいませんね。
 お金をいただいて花を作らせてもらい、相手から直接「ありがとう」といわれる……初めて花屋で働いたとき、びっくりしました。なんでこんなに感謝されるんだろうって。そのとき、花屋っていいなと思ったんです。こんな幸せな仕事はありません。相手によろこんでもらえるのが一番のモチベーションですね。だから、いろいろな仕事をしても、僕の根っこにはいつも花屋があるんです。「オートクチュールの花屋」を始めてもうすぐ16年になりますが、これからもずっと続けたいと思っています。

2017-05-19

BOOK

「花のない花屋」

「花のない花屋」(発行・朝日新聞出版)著者:東信, 写真:椎木俊介
人気連載「花のない花屋」待望の書籍化。読者が「花束」を贈りたい相手、その理由、思いを手紙にしたため、それを読んだフラワーアーティスト東信が思いを「花束」に束ねて届ける100の物語。言葉にできない感情や思い、そしてその思いを託された花束の美しさが心を打つ一冊。
税込 2,268円
東 信
東 信(あずま・まこと)
フラワーアーティスト
1976年生まれ。2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。
http://azumamakoto.com

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