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中山高光さん(1929年生まれ)

 国連で「ノーモア・ヒバクシャ」と演説し、2013年7月に82歳で亡くなった山口仙二(やまぐちせんじ)さんをしのぶ会が同9月に長崎市で開かれた。私はその場で、懐かしい人に会った。

 私の初任地・熊本で長く熊本県被団協の事務局長を務めた中山高光(なかやまたかみつ)さん(84)=熊本市東区。あいさつに立ち、「仙ちゃんには励まされました」と別れを惜しんでいた。

 中山さんは被爆当時16歳。爆心地の南3・1キロ、長崎市水の浦町(現・飽の浦町)の三菱長崎造船所で被爆した。その後、地元の熊本に帰り、平和運動にかかわる。その一環で、世界各国で被爆体験を語ってきた。

 私の熊本在勤当時は、国に原爆症認定を求める集団訴訟が大詰めを迎えていた。中山さんも原告の一人として07年7月に熊本地裁で勝訴した(09年12月に確定)。中山さんは常に原告団の先頭に立っていた。

 熊本から核廃絶の思いを発信し続けてきた中山さんの半生を知りたいと思い、取材を始めた。

 中山さんは1929年、南米・ペルーで生まれた。「ペスカド(魚)」「カマロン(小エビ)」といったスペイン語を今も覚えている。「川遊びの名残です」という。隣の家も見えないほど広大な土地で育った。

 父は現在の熊本県南阿蘇村立野の出身。小作人で貧しく、大正期に新天地・ペルーへと渡った。農園の労働者や食堂の皿洗いなどを転々とした後、土地を借りてトウモロコシや綿の農園を営んだ。母は島根県の小作人の娘で、字も読むことができなかった。

 中山さんは35年に日本人学校に入学。しかし、日本が31年に満州事変を起こし、33年に国際連盟を脱退するなど国際的孤立を深める中、ペルーでも日本人への目が厳しくなった。35年の10月、一家は熊本・立野へと戻った。翌年、一家は熊本市へ出て、父は小さな商店を開いたが、うまくいかなかった。

 中山さんは両親の苦労を肌で感じていた。「早く働いて楽をさせたい」という気持ちが生まれた。

 中山さんは瀬田東部尋常小学校(改称、統合し現在の南阿蘇村立南阿蘇西小学校)に3学期だけ通った後、2年生から一新尋常小学校(現・熊本市立一新小学校)に転入した。学校は軍国教育一色。教科書は兵隊や戦車ばかりが登場し、「ススメ、ススメ、ヘイタイススメ」と書いてあった。歴代の天皇の名前をすべて暗記させられた。中山さんもすぐに軍国少年に。「あっという間に子どもは感化される。恐ろしいよ」

 卒業後は仕事に早く就きやすいよう熊本県立工業学校(現・県立熊本工業高校)へ。入学した41年、太平洋戦争が開戦した。すると勉強はそっちのけ。毎日、軍需工場へと通い、飛行機用のネジを作った。海軍飛行予科練習生にあこがれ、願書を手に入れたが、母の反対で断念した。

 工業学校は5年制だったが、戦争の影響で4年に短縮された。中山さんは「働いて、親を助けたい」と三菱長崎造船所へ就職した。原爆投下の4カ月前のことだった。

 長崎市水の浦町(現・飽の浦町)にあった三菱長崎造船所第2事務所。6階建てビルの5階が中山さんの職場だった。設計部門に配属されたが、工業学校では工場での労働ばかりしていたので、専門的なことは何もわからない。設計図をトレーシングペーパーで模写する仕事を任された。

 45年8月9日も職場で模写をしていた。午前11時すぎ、突然、目の前がパッと明るくなった。顔を上げると、浦上の方に大きな光が見えた。「小さな太陽のようだった」。真ん中が真っ赤に輝き、その周りは青白く光っていた。

 6、7秒たっただろうか。突如、爆風でビルが揺れ、窓ガラスが粉々に散った。窓際にいた人は血だらけになった。

 防護団に所属し、いざという時は屋上で監視する役割だった中山さんは階段を上った。浦上方面に黒いキノコ雲が立ち上っていた。水分を含んでいたのだろうか、太陽に照らされ、所々が七色に輝いていた。

 何が起きたのか分からなかった。職場には多少知識のある人もいて、「原子爆弾ではなかろうか。マッチ箱一つで軍艦を沈める力があるらしい」と話していた。造船所近くの三菱病院には、次から次へとけが人がやってきた。

 当時、中山さんは爆心地の南約500メートルの浜口町(現・川口町)にあった浦上寮に住んでいた。夕方、中山さんは同じ寮の同僚ら十数人と寮に向けて出発した。

 浦上川の西側を爆心地へ向けて北へと歩いた。つぶれた家の前で、避難もせず、魂の抜けたように座っている人々がいた。浦上方面から逃げてくる人の顔や手はやけどでふくれ、チョコレートのように黒ずんでいた。途中にある淵神社では、木から葉っぱが落ち、薄茶色になって積もっていた。

 浦上は一面が焼け野原だった。その光景を中山さんは対岸から見つめた。寮は防火壁2枚だけを残して消えているのがわかった。「もうダメだ」と中山さんは思った。

 中山さんらは浦上寮に行くのを…

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