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 国文学研究資料館の野網摩利子助教が翻刻した夏目漱石から正岡子規への手紙の全文は次の通り。末尾の「愚陀佛庵(ぐだぶつあん)」が漱石の署名で、「升(のぼる)様」が子規を指す。

     ◇

昨夜は失禮(しつれい)致候(いたしそろ)塩原(しおばら)

温泉の出口にて碧梧(へきご)生(せい)の為(た)

めに腕車(わんしゃ)を雇ひ呉(く)れ候(そうろう)但(ただ)し

同車屋も大兄(たいけい)の御出入(おでいり)と見え

て賃銭は大兄より頂戴(ちょうだい)する

由(よし)申(もうし)居(おり)候(そうら)へども遂(つい)に手前より

拂(はら)ひ置(おき)候故(そうろうゆえ)間違(まちがい)なき様

申上候(もうしあげそろ)鎌倉の俳句大

受(うけ)にて恐悦の至(いたり)に存候(ぞんじそろ)

左に二三句行列為致候(なしいたさせそろ)

間(あいだ)御笑覧(ごしょうらん)可(被下)候(くださるべくそうろう)

  鶴岡八幡

 徘徊(はいかい)す蓮(はす)あるをもて朝な夕な

 白蓮(びゃくれん)に卑しからざる朱欄哉(しゅらんかな)

  帰源院(きげんいん)禅僧宗活(そうかつ)

  に對(たい)す

 其許(そこもと)は案山子(かかし)に似たる和尚哉

  同寺にて

 山寺に湯醒(ゆざめ)を悔(くゆ)る今日の秋

 佛性(ぶっしょう)は白き桔梗(ききょう)にこそあらめ

  初秋鎌倉に宿(しゅく)す

 行燈(あんどん)や短かゝりし夜の影

       ならず

  星の井戸

 影二つうつる夜あらん

          星の井戸

  円覚寺にて

 禅寺や只(ただ)秋立(あきた)つと聞くからに

愚妻病気 心元(こころもと)なき故(ゆえ)本日又(また)

鎌倉に赴く

 京に二日また

  鎌倉の秋を憶(おも)ふ

二十三日

           愚陀佛庵(ぐだぶつあん)升(のぼる)様

  研北

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