夏目漱石「三四郎」(第二十七回)三の十三
戸の後へ廻って、始めて正面に向いた時五十あまりの婦人が三四郎に挨拶をした。この婦人は三四郎の身体(からだ)がまだ扉の影を出ない前から席を立(たっ)て待(まっ)ていたものと見える。
「小川さんですか」と向うから尋ねてくれた。顔は野々宮君に似ている。娘にも似ている。しかしただ似ているというだけである。頼まれた風呂敷包を出すと、受取って、礼を述べて、
「どうぞ」といいながら椅子…
戸の後へ廻って、始めて正面に向いた時五十あまりの婦人が三四郎に挨拶をした。この婦人は三四郎の身体(からだ)がまだ扉の影を出ない前から席を立(たっ)て待(まっ)ていたものと見える。
「小川さんですか」と向うから尋ねてくれた。顔は野々宮君に似ている。娘にも似ている。しかしただ似ているというだけである。頼まれた風呂敷包を出すと、受取って、礼を述べて、
「どうぞ」といいながら椅子…