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フィリップ・トルシエ(元日本代表監督)

 サッカーの監督にとって勝利こそがすべてだ。勝てば信頼を得られ、チームに前向きな雰囲気が生まれる。私が2002年FIFAワールドカップ(W杯)までの4年間に日本代表監督を務めた時、出る試合はすべて勝ちたいと考えていた。

 当時、われわれは日韓共催のW杯で戦えるチーム作りに全力を注いだ。日本代表がW杯で勝利する可能性を少しでも高めるために、私は三つの異なるレベル(A代表、五輪代表、U―20)の選手と向き合うことが求められた。

 当時、日本には種類の異なる三つの代表チームがあり、それぞれに目標があった。そして、私はそのすべてに責任を負っていた。その目標とは1999年にナイジェリアで開催されたFIFAワールドユース選手権、その1年後のシドニー五輪、そして02年のW杯だ。われわれは目標に向けて、様々な大会に出場してチームの強化を図る必要があった。00年にレバノンで行われたアジアカップもそのプロセスの鍵となる重要な大会だった。

 どの目標も日本サッカー協会にとって非常に重要だった。我々はすべての試合に勝って、常に最良の状態を維持したかった。目標間でうまくバランスを取ることを心がけ、人を教育することも求められた。ときには試合に負けることがあったが、勝利よりも敗戦からより多くを学んだときもあった。いずれにせよ、最高の結果を得るために、常にバランスを取る必要があった。良い結果を積み重ねることによりチームの結束が図れるからだ。

 アジアカップは厳しい環境で強豪と戦えるいい機会だった。われわれは同大会の前に、ワールドユース選手権と00年のシドニー五輪への出場を経験した。この二つの大会ではハイレベルな試合が展開され、若手選手がアジアカップ出場に向けて準備できる大変有意義な機会となった。

 代表監督にとって重要なことは、自分の仕事の成功は8割がクラブ側にかかっているということを認識することだ。私は日本代表監督時代、いつも自分には20人の副監督がいると考えていた。20人とはJリーグ各チームの監督だ。Jリーグのレベルこそが日本代表のレベルの源であり、代表選手が所属するクラブのレベルがそのまま日本代表に反映されるのだ。

 代表監督には、特別なトレーニングなど選手のフィジカル面について考える時間はない。監督が選手と過ごせる時間はわずか4、5日程度だ。海外でプレーする選手なら、到着して旅の疲れを癒やした後1、2日しか残っていないかもしれない。チームの準備を整える時間は限られているのだ。

 監督のすべき仕事の大半はクラブで行われており、監督として残る作業は選手間の最高のバランスを見つけることだ。これこそが代表監督の仕事だ。選手らをチームの適切なポジションに配置し、試合運びや選手の起用法を考える。また対戦相手を分析し戦略を練る必要もある。

 特に大会の予選や親善試合では、監督が選手のフィジカル面についてあれこれ考えている暇はない。無論トーナメントでは事情が異なってくるが、クラブが行う仕事が大変重要であることに変わりはない。代表監督の主な仕事は、選手を訓練することではなく、そのときに使える最高の選手をそろえることだ。

 また選手とスタッフがクラブのような強い一体感を持つことも重要だ。私の代表監督時代、代表の本部は福島県にあるJヴィレッジに置いた。そこがわれわれのクラブハウスだった。選手にその存在を認識してもらい、そこに自分の部屋があり、いつも同じ施設を使用し、同じピッチでプレーすることが重要だった。それこれが強いアイデンティティーを生むことになるからだ。選手はいつも試合やトーナメントでホテル暮らしを続けており、ここに来てまでそんな生活を望んでいるわけではない。

 また代表チームの種類を問わず、仕事をする時は同じ対応をした。常に同じスタッフ、同じ手法を使った。サプライズは一切なし。すべて同じレベルで行い、違いは全くなかった。そのため若手選手が代表入りしても、ユースチームや五輪代表の時とすべて同じだった。選手に気持ちよくプレーさせることが重要だった。

 選手が成功するためには試練を乗り越える必要があるが、いいプレーをするには「安定」と「構造」が必要となる。チームがどのレベルでも成功を目指すなら、この二つは不可欠な要素だ。00年のアジアカップ・レバノン大会で私と日本代表にとって重要だったこの二つの要素が、来年1月に開かれるオーストラリア大会でも重要になるだろう。

〈フィリップ・トルシエ〉フランス出身のサッカー監督。00年にレバノンで開催されたAFCアジアカップで日本を同大会2度目の優勝に導き(日本は同大会で過去4度優勝)、その2年後、W杯本戦で日本をベスト16へと導いた。その後、カタール、フランス、モロッコ、中国で監督を務めた。日本代表監督就任前には南アフリカ代表監督も務め、98年W杯でも本戦出場を果たしている。

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 アジアサッカー連盟(AFC)提供記事を翻訳

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