【動画】韓国で日本家屋再生=川村直子撮影
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鏡の中の日本〈7〉知る

 中国西南部にある四川教育出版社で、政治学者・丸山真男の「講義録」や精神科医・中井久夫の「分裂病と人類」を翻訳出版する準備が進んでいる。春には思想史家・藤田省三の「精神史的考察」も出版される。

 2年前は「自動車の社会的費用」が訳された。公害や交通事故など、自動車のコストを分析した経済学者・宇沢弘文の代表作で、1974年の岩波新書だ。

 編集を担当した岩波書店元社長の大塚信一(75)が昨夏、中国で講演した際、編集者たちから質問が相次いだ。中国では経済成長により、かつての日本と同じ問題が起きている。「歩行者の権利という発想が新鮮だったようです」。韓国でも今年出版の予定だ。

 中国で日本の戦後の「古典」が相次いで翻訳されている。東アジアで100冊の人文書を互いに翻訳しようというプロジェクトの一環。中国、台湾、香港、韓国、日本の編集者の交流組織「東アジア出版人会議」が始めた。2011年に各地域のメンバーが、それぞれ翻訳して共有したい過去50~60年の本を選んだ。日本からは計27冊。

 先月初旬、北京市の老舗出版社「中華書局」を、会議のメンバー約10人が訪れた。

 「かつて東アジア世界で盛んだった書物を媒介とした交流は、近代化とともに失われてしまった。互いの仕事を理解する友情の輪に加わっていただきたい」。筑摩書房社長の熊沢敏之(61)が切り出した。

 東アジアでは、中国、朝鮮半島、日本の本が、時代を超えて互いに読まれていた。書物の交流が、理解と共感の基盤だった。しかし近代になると専ら西欧に目が向けられた。東アジアで再び、時空を超えて同じ書物を読む交流を復活させたい。会議は05年、その願いから始まった。

 戦後日本の出版人には、多くを学んだ中国を侵略したことへの「贖罪(しょくざい)」意識があった。戦後早い時期から岩波書店は全刊行物を中国の図書館に送付し始め、66年には出版社代表の訪中団も派遣された。72年の国交正常化後は、中国の研修生を受け入れた。90年代以降、翻訳を通じた出版界の関係が深まっていった。

 中国は60~70年代に文化大革命を、韓国は80年代まで軍事政権を経験した。出版が厳しく制限された時代の「空白」を埋めるように、韓国では日本の翻訳本も年3千点以上刊行される。昨年は村上春樹「女のいない男たち」や斎藤孝「雑談力が上がる話し方」がベストセラーに。同時に、「100冊」のような古典も出版される。

 一方、日本では80年代末ごろから、売り上げ維持のために新刊本が激増し、古い本は重版されにくくなった。最近は、「嫌韓本」「嫌中本」がよく売れる。

 会議メンバーで元平凡社編集局長の龍澤(りゅうさわ)武(69)は「中国は出版の長い中断があり、韓国は蓄積が不在だ。日本には、出版の蓄積があるにもかかわらず、それを忘却しているのではないか」と感じている。=敬称略

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