夏目漱石「三四郎」(第百十六回)十二の七
三四郎はその日から四日ほど床を離れなかった。五日目に怖々(こわごわ)ながら湯に入って、鏡を見た。亡者(もうじゃ)の相がある。思い切って床屋へ行った。その明(あく)る日は日曜である。
朝食後(あさめしご)、襯衣(シャツ)を重ねて、外套(がいとう)を着て、寒くないようにして、美禰子の家(うち)へ行った。玄関によし子が立って、今沓脱(くつぬぎ)へ降りようとしている。今兄の所へ行く所だという。美禰子はいない。三四郎は一所に表へ出た。
「もう悉皆(すっかり)好(…