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 両人(ふたり)は其所で大分(だいぶ)飲んだ。飲む事と食う事は昔の通りだねと言ったのが始りで、硬(こわ)い舌が段々弛(ゆる)んで来た。代助は面白そうに、二(に)、三日(さんち)前自分の観(み)に行った、ニコライの復活祭の話をした。御祭が夜(よ)の十二時を相図(あいず)に、世の中の寐鎮(ねしず)まる頃を見計(みはから)って始る。参詣人(さんけいにん)が長い廊下を廻(まわ)って本堂へ帰って来ると、何時(いつ)の間(ま)にか幾千本の蠟燭(ろうそく)が一度に点(つ)いている。法衣(ころも)を着た坊主が行列して向うを通るときに、黒い影が、無地の壁へ非常に大きく映る。――平岡は頰杖(ほおづえ)を突いて、眼鏡の奥の二重(ふたえ)瞼(まぶち)を赤くしながら聞いていた。代助はそれから夜の二時頃広い御成街道(おなりかいどう)を通って、深夜の鉄軌(レール)が、暗い中を真直(まっすぐ)に渡っている上を、たった一人上野(うえの)の森まで来て、そうして電燈に照らされた花の中に這入(はい)った。

 「人気(ひとけ)のない夜桜は好(い)いもんだよ」といった。平岡は黙って盃(さかずき)を干したが、ちょっと気の毒そうに口元を動かして、

 「好(い)いだろう、僕はまだ…

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