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 代助は平岡が語ったより外(ほか)に、まだ何かあるに違(ちがい)ないと鑑定した。けれども彼はもう一歩進んであくまでその真相を研究するほどの権利を有(も)っていないことを自覚している。またそんな好奇心を引き起すには、実際あまり都会化し過ぎていた。二十世紀の日本に生息する彼は、三十になるか、ならないのに既にnil admirariの域に達してしまった。彼の思想は、人間の暗黒面に出逢って喫驚(びっくり)するほどの山出(やまだし)ではなかった。彼の神経はかように陳腐な秘密を嗅(か)いで嬉(うれ)しがるように退屈を感じてはいなかった。否(いな)、これより幾倍か快よい刺激でさえ、感受するを甘んぜざる位、一面からいえば、困憊(こんぱい)していた。

 代助は平岡のそれとは殆(ほと)んど縁故のない自家特有の世界の中で、もうこれほどに進化――進化の裏面を見ると、何時でも退化であるのは、古今を通じて悲しむべき現象だが――していたのである。それを平岡は全く知らない。代助をもって、依然として旧態を改めざる三年前(ぜん)の初心(うぶ)と見ているらしい。こういう御坊っちゃんに、洗い浚(ざら)い自分の弱点を打ち明けては、徒(いたず)らに馬糞(まぐそ)を投げて、御嬢さまを驚ろかせると同結果に陥いりやすい。余計な事をして愛想(あいそ)を尽かされるよりは黙っている方が安全だ。――代助には平岡の腹がこう取れた。それで平岡が自分に返事もせずに無言で歩いて行くのが、何となく馬鹿らしく見えた。平岡が代助を子供視する程度において、あるいはそれ以上の程度において、代助は平岡を子供視し始めたのである。けれども両人(ふたり)が十五、六間(けん)過ぎて、また話を遣り出した時は、どちらにも、そんな痕迹(こんせき)は更になかった。最初に口を切ったのは代助であった。

 「それで、これから先どうする…

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