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 それから約四十分ほどして、老人は着物を着換えて、袴(はかま)を穿(は)いて、俥(くるま)に乗って、どこかへ出て行った。代助も玄関まで送って出たが、また引き返して客間の戸を開けて中へ這入(はい)った。これは近頃になって建て増した西洋作りで、内部の装飾その他の大部分は、代助の意匠(いしょう)に本(もと)づいて、専門家へ注文して出来上ったものである。ことに欄間(らんま)の周囲に張った模様画は、自分の知り合いのさる画家に頼んで、色々相談の揚句(あげく)に成ったものだから、特更(ことさら)興味が深い。代助は立ちながら、画巻物(えまきもの)を展開したような、横長の色彩を眺めていたが、どういうものか、この前来て見た時よりは、痛く見劣りがする。これでは頼もしくないと思いながら、なお局部々々に眼を付けて吟味していると、突然嫂(あによめ)が這入って来た。

 「おや、此所(ここ)にいらっしゃるの」といったが、「ちょいと其所(そこい)らに私の櫛(くし)が落ちていなくって」と聞いた。櫛は長椅子(ソーファ)の足の所にあった。昨日(きのう)縫子に貸して遣ったら、どこかへ失(なく)なしてしまったんで、探しに来たんだそうである。両手で頭を抑えるようにして、櫛を束髪(そくはつ)の根方(ねがた)へ押し付けて、上眼(うわめ)で代助を見ながら、

 「相変らず茫乎(ぼんやり)し…

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