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 平岡の細君は、色の白い割に髪の黒い、細面(ほそおもて)に眉毛(まみえ)の判然(はっきり)映(うつ)る女である。ちょっと見るとどことなく淋(さみ)しい感じの起る所が、古版(こはん)の浮世絵(うきよえ)に似ている。帰京後は色光沢(いろつや)がことによくないようだ。始めて旅宿で逢った時、代助は少し驚いた位である。汽車で長く揺(ゆ)られた疲れが、まだ回復しないのかと思って、聞いて見たら、そうじゃない、始終こうなんだといわれた時は、気の毒になった。

 三千代は東京を出て一年目に産をした。生れた子供はじき死んだが、それから心臓を痛めたと見えて、とかく具合がわるい。始めのうちは、ただ、ぶらぶらしていたが、どうしても、はかばかしく癒(なお)らないので、しまいに医者に見てもらったら、能(よ)くは分らないが、ことによると何とかいう六(む)ずかしい名の心臓病かも知れないといった。もしそうだとすれば、心臓から動脈へ出る血が、少しずつ、後戻(あともど)りをする難症だから、根治(こんじ)は覚束(おぼつか)ないと宣告されたので、平岡も驚ろいて、出来るだけ養生に手を尽した所為(せい)か、一年ばかりするうちに、好(い)い案排(あんばい)に、元気が滅切(めっき)りよくなった。色光沢も殆(ほと)んど元のように冴々(さえざえ)して見える日が多いので、当人も喜こんでいると、帰る一カ月ばかり前から、また血色が悪くなり出した。しかし医者の話によると、今度のは心臓のためではない。心臓は、それほど丈夫にもならないが、決して前よりは悪くなっていない。弁の作用に故障があるものとは、今は決して認められないという診断であった。――これは三千代が直(じか)に代助に話した所である。代助はその時三千代の顔を見て、やっぱり何か心配のためじゃないかしらと思った。

 三千代は美くしい線を奇麗に重…

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