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 岐阜県美濃加茂市への浄水設備設置をめぐる贈収賄事件で、事前収賄などの罪に問われた市長の藤井浩人被告(30)に対し、名古屋地裁(鵜飼祐充裁判長)は5日、「贈賄を認めた業者は、現金授受に関して事実を語ったか疑問だ」として、無罪(求刑懲役1年6カ月、追徴金30万円)の判決を言い渡した。

 「全国最年少市長」と話題になった藤井市長は、市議だった2013年3~4月、設備会社社長の中林正善受刑者(44)=贈賄罪や金融機関への詐欺罪で実刑判決が確定=から浄水設備導入に向けて職員に働きかけるよう依頼を受け、見返りに2度にわたって現金計30万円を受け取ったとして、起訴されていた。

 公判では、「市長に現金を渡した」などと認めた中林社長の証言の信用性が争われた。

 検察側は、中林社長の金融機関の出入金記録や、2人がやりとりしたメールの存在を指摘。中林社長の証言と一致すると主張していた。一方、藤井市長は「現金を受け取った事実は一切ない」と無罪を主張していた。

 判決は、1回目の現金授受に関する中林社長の捜査段階での供述の変遷を取り上げ、「強く印象に残るべきことなのに、不自然と言わざるを得ない」とした。さらに中林社長が捜査段階で2回目の現金授受を先行して自白し、公判で「1回目のことはよく覚えていなかった」と述べた点について、「賄賂を渡すのは非日常。渡したのなら記憶があったはずだ」と疑問を呈した。

 また、検察側が証言の支えとした出入金記録については、「賄賂の原資になりうるとしても授受を裏付けるわけではない」と指摘。中林社長が「なんでも遠慮なくご相談下さい」と送ったメールは、「さまざまな解釈ができる」と分析。賄賂の存在を示すとする検察側の見方を否定した。

 一方、藤井市長の弁護団が主張していた「供述の誘導」について、鵜飼裁判長は「捜査側と取引をした事実はうかがえない」と判断。中林社長が「虚偽」の説明をした背景として、当時、多額の詐欺事件の捜査が進められていたことを挙げ、「なるべく軽い処分になるよう、別の重大事件に目を向けさせようと考えた可能性がある」と指摘した。

 贈賄罪や金融機関への詐欺罪に問われた中林社長は別の裁判長が審理した。今年1月に懲役4年の実刑判決が言い渡され、すでに確定している。

 鵜飼裁判長は最後に「市政に尽力されることを期待します。頑張って下さい」と藤井市長に語りかけた。藤井市長は閉廷後に会見し、「主張してきたことが認められ、感謝したい。多くの方に支えられ、無罪を勝ち取れたことをうれしく思う」と話した。

     ◇

 名古屋地検の大図明次席検事は判決後、取材に応じ、「供述だけでなく、資金の流れやメールなどの証拠があった」と述べ、立証は尽くしていたとの見解を示した。判決が、1回目の現金授受に関する中林正善社長の捜査段階の供述のあいまいさを指摘したことに質問が及ぶと、「人の記憶だから、詳細まで覚えているとは限らないと考えている」と答えた。今後、判決内容を検討し、上級庁と協議して対応するという。