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 渋すぎるパッケージ。庭づくりで「わびさび」を競うコンセプト――。スマホゲーム全盛のいま、ヒットを飛ばすボードゲームがある。その名も「枯山水」。どんなものなのか。

 「面白さには自信があったが、まさかここまで受けるとは」。発売元のボードゲーム輸入卸会社「ニューゲームズオーダー」(東京都立川市)の開発責任者、吉田恒平さん(35)がうれしい悲鳴を上げる。

 昨年11月に発売。価格は8100円とやや高めながら、2月末までに860セットを売り上げた。石の色塗りなどは手作業のため月産150セットがやっと。「2月は社員休みなしだった」(吉田さん)が、生産が追いつかない状態だ。

 ゲームは2~4人で対戦する。各自が庭師となり、庭園ボード(縦21センチ、横約30センチ)に砂紋やコケが描かれたタイルを並べたり、石膏(せっこう)製の庭石を置いたりして庭をつくる。「座禅」で稼いだ「徳」ポイントなどに応じて好きなアイテムを選べる。持ち時間は60~90分。出来た庭はデザインの規則性などで採点し、最高得点の人が、最もわびさびを表現できたとして勝利する。

 枯山水とは、水を用いずに石や砂などで風景を表現する作庭の一様式。「日本独特の美学、やや高尚と思われているものがゲームになったギャップがあるのかも」。枯山水の作者、ゲームデザイナー山田空太さん(34)=兵庫県宝塚市=が話す。

 京都に住んでいた2012年、枯山水の研究家で作庭家の重森三玲(みれい)の庭などを鑑賞する中で着想。ゲームで「永遠のモダン」をつくりたいと、歴史や知識を学び、吉田さんの会社が共催する企画コンテストに応募。大賞を受賞した。

 商品化の際、議論を重ねたのがパッケージの絵だ。吉田さんによると、当初イラストレーターが用意した絵は15枚。ほとんどが抽象画的な絵柄だったが、鎌倉―室町時代の禅僧で作庭に優れた夢窓疎石がモデルのデザインを採用。表情をくっきり描かず枯淡のテイストにこだわった。

 この「加齢臭がしそうなパッケージ」は評判を呼んだ。「あいまいな恐怖を持っている老いを肯定した」と吉田さん。「悲しみがないジジイですが何か?」「いやあ、ジジイになっちゃって庭つくり放題ですわ」。そう言っているような老人の表情が新鮮に映ったのではと笑う。

 ボードゲームになじみが薄い層へも広がった。ボードゲームジャーナリストの小野卓也さん(41)=山形県長井市=は、「人生ゲーム」「モノポリー」といった従来の商品イメージを覆す斬新さが受けているのではと話す。

 さらに、枯山水という和のテーマや渋すぎる老人の絵柄からは意外なSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)との親和性も指摘。「形や絵柄が異なる石やタイルを組み合わせて庭をつくる様子を写真に撮ることが多く、ツイッターなどでの拡散につながっている」

 「庭と日本人」の著作がある上田篤・京都精華大名誉教授によれば、「庭」は神が降り立つ場所。一瞬の光の変化が心を打つと考える。その典型である枯山水をゲーム化したことについて、「勝ち負けでは神を感じられないのでは……」。だがすぐに、臨床心理学者の河合隼雄が採り入れた箱庭療法を連想した。「集中してものをつくる喜びを得られるならおもしろい」

 作者の山田さんが最も大切だと考えるのは「勝ち負けだけではなく、自分だけの庭を完成させる楽しみ」。ゲームをきっかけに、本物の枯山水の庭にも足を運んでほしいと思っている。(北林慎也、吉浜織恵)

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