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 マンガとアニメーションの偉大なる巨人、ウィンザー・マッケイの名作「リトル・ニモ」。20世紀初頭、新聞の日曜版に1面まるごと使ってフルカラーのマンガを連載、主人公の男の子ニモが奇想天外な夢を見ては目覚めてオチ、というパターンを繰り返すこの物語、これまで私はアニメ版(マッケイによる短編、日本で作った長編やパイロット版)とか、マンガ史にまつわる本や記事などで引用された図像は見ていましたが、まとまって読んだことはありませんでした。

 ありがたいことに、1905~1914年の連載(3期にわたる連載の第1・2期にあたる)を完全収録した「リトル・ニモ 1905―1914」が昨年、小学館集英社プロダクションから刊行されました。347×260mmの大判でオールカラー、400本以上を収録し、これで6千円(税抜き)は訳者の小野耕世さんの言う通り「お買い得」です。海外コミック研究の第一人者で、「ニモ」を「今後これを越える作品はもうないかもしれないと感じるほどの、世界最高のコミックス」(本書解説より)とたたえる小野さんが、7日に東京都の千代田区立日比谷図書文化館で「マンガとアニメの天才、ウィンザー・マッケイ ~『リトル・ニモ』の魅力に迫る~」と題した講演をしたので聴いてきました。

 「この場面が好き」と小野さんが挙げたのは1906年3月11日の回の後ろから2番目のコマ。2羽の大クジャクにつないだ車に乗ったニモが朝日を浴びる場面(次のコマはベッドで目覚めるニモ)。

 「太陽が出て、夢の国がかすんで消えかかる。それを表現するのにマッケイは、夢の国の住人ではないニモだけ黒い輪郭線、あとは薄く青い輪郭線にした。色全体に、太陽に吸収される雰囲気が出ている。『ニモ』の原画はただの白黒で、色はついていない。印刷で色をつけている。新聞社の技術者にいろいろ相談し、試して、こういうことをやったらしい。大変な手仕事です。映画監督のサミュエル・フラーは少年時代、新聞社でコピーボーイ(雑用係)をやっていて、『マッケイは新聞社で、輪転機が回って自分のマンガに色がつくのを見て、オオッと感動して声を上げた』という話を私にしてくれた。使用済みの原画をもらったので持っているとも言っていた。昔はマンガの原画になんて価値はないと思われていたから、そういうことが珍しくなかった」

 指定の色で枠の中を塗り込めるような彩色ならまだしも、こんな淡い色合いでグラデーションが繊細なものを、しかも(当然ながら)アナログで! 入念な打ち合わせや何度もの試し刷りが必要だったはずで、なんだかものすごくぜいたくな作り方だったのではないかという気がします。ちなみにこの「太陽の光で淡くかすんでいく夢の世界」という描写は同じ年の1月7日や7月15日の回にもあって、後者ではかすみ具合が進化しているように見えます。

 小野さんによると今回邦訳された本は、新聞に印刷されたものを基に、その色を忠実に再現したものだそうですが、「新聞紙の地の色を取り除いて、いい紙に印刷しているので、色は当時の新聞よりもっとキレイになっているのでは。『リトル・ニモ』の色の使い方、凝り方はいま見ても古びた感じはしない。当時の色つき新聞マンガの中でも異色というか群を抜いていたと思う」とのことでした。

 「ニモ」と言えば、ベッドの脚がニョキニョキ伸びて歩き出す場面(1908年7月26日)がよく知られていますが、翌年3月21日の回では、月の光を浴びた街の建物が脚をはやして動き出す不気味な場面があります。

 「まず発想自体が面白い。コマ割りも大きさを変えてあり(脚が伸びるにつれ縦長になる)、背景の空の色もあえていろんな色を使って不安を反映させている。色で気配を示し、ドラマを持たせている。月の色もコマによって変えてある。ゾクゾクしますね」

 マッケイの挑戦と実験精神は、メタ的な表現の開拓へも向かいました。

 「ニモたちが歩いていると、背…

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