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 何のため、誰のための高みなのか。運動会で10段、高さ7メートルもの人間ピラミッドをつくる組み体操への疑義を2月、オピニオン面の「耕論 体育で何を鍛えるか」で紹介しました。寄せられた反響を元に、再び考えました。

読者の反響、多くは懐疑的・批判的

 読者からの反響の多くは、現在の組み体操や運動会のあり方について、懐疑的・批判的なものでした。

 熊本市在住の女性は、公立中学に通う長男が組み体操で腕を骨折した経験から「学校に強制的に曲芸をやらされてのけがに、納得がいきませんでした」「子どもに曲芸をさせて『感動』する保護者の気がしれません」と書いています。

 2人の子をもつ40代女性は、小学校の運動会の大型ピラミッドを「すごいなと思う半面、怖いなとも思った」「6年生の運動会の組み体操のために5年生から逆立ち等の練習を学校で始めていた。家でも練習をやって下さいと言われ、驚いた」と回想しています。

 埼玉県の男性は、孫が通う小学校に「今年は(組み体操を)中止してはどうかと申し入れをしましたが、即答はもらえませんでした」といいます。

 愛知県の小学校教員の女性は、勤務校でも組み体操の練習中に骨折などの事故が起きていると言い、その背景に教職員の世代構成の問題があると指摘します。10年ほど前から若手教員が増え、「インターネットに投稿されている数々の運動会の動画を見て『自分もやりたい』と考えます。ベテランの教師なら、『この技は完成するまでにどれくらいかかる』とか、『自分の学校では無理だ』とかがわかるでしょう。しかし、若い先生たちでは、やりたいばかりで、歯止めが利きません」。

 埼玉県の元小学校教員の男性は、在職中に組み体操に困っていたといいます。「組み体操には教育としての意義はありません」「何の力も能力も感覚もつきません」。組み体操で得られる「感動」の価値は「骨折始め重大事故の危険を冒すにしては小さすぎるのです」と断じています。

 ある大学生は、高校時代の体育の時間に行われていた「集団行動」について、「まるで軍隊のようでした」「非科学的で体育では何を求めているのかよく分かりませんでした」と書いています。

 その一方で「スポーツから感動をとったら何が残るの? ただの疲労行為じゃないですか」(匿名)、「1%のリスクでここまで学校がたたかれるとは」(高校の部活動指導者)といった意見もありました。

 ある高校生は、厳しい体育の授業に疑問を抱いたものの「1年間同じ仲間で乗り越えた苦労や達成感は私たちの絆を深めてくれました」と書いてくれました。

教育的な意義、先生はどう考えているか

 組み体操を実践する先生は教育的な意義をどう考えているのでしょうか。「人間同士が触れあって組み合う達成感。特にゲームやスマホなど中遊びばかりの時代に、手をつなぎ、互いの息を感じることでコミュニケーションや思いやりが学べ、体力もつく」

 兵庫県伊丹市立南中で保健体育担当の吉野義郎教諭(53)はそう話します。組み体操を指導して31年目。前任の同市立天王寺川中では10段ピラミッドを組みました。2011、12年の体育大会では11段に挑み、失敗しました。

 けがや事故防止のために何をするのか。「組み体操に入る前に土の上で柔道の受け身など倒れ方を練習する。ピラミッドも他の技も、バランスを崩して落ちる時には、自分の下に1人しかいない2段の高さなら飛び降りる、3段以上は補助役に受けてもらうことを徹底する」と言います。ピラミッドの場合、「補助は重要な役割で、両側に5人ほどが必要。また、土台の生徒が押し潰されて肩やひじを脱臼するのを防ぐため、重さに耐えられなくなった時にダンゴムシのように丸まる方法を教える」。

 大阪府を中心に小学校の先生が集まる関西体育授業研究会は毎年、組み体操の実技研修会を開催。事務局を務める箕面市立萱野小の垣内幸太教諭(40)は「研修会で紹介した技は、子どもや学校の実情に合わせて活用して欲しい」と伝えるそうです。

 「少し頑張ればできそうというレベルの見極めが大事」。例えば、組み体操にはピラミッドのほか、肩の上に立って3、4段と重ねるタワーがあります。3段なら通常は1段目6人、2段目3人、3段目1人と組みますが、垣内教諭は危ないと思ったら1段目を9人にします。「見ている人から多くの拍手をもらおうと、無理して難しさや派手さを追うとひずみが出る」

 技の選択は、子どもの体力に合わせる必要があります。吉野教諭が10段ピラミッドを始めたのは1990年ごろ。体幹が弱まって4段タワーが無理になり、種目を変えた結果です。「今後、運動会・体育大会の演技は男子もダンス中心に移るだろう」と言います。

 「組み体操は戦前から学校現場に根付いてきたのに、文部科学省がノータッチなのはどうか。どれだけの学校でなされ、どんな事故がどれだけ起きているかを掌握すべきでは」。現場任せにしてきた問題を、吉野教諭は指摘します。

事故のメカニズム解明を

【名古屋大学准教授 内田良さん】

 読者からの反響を読み、組み体操を含めた体育の問題についてようやく声が出てきたという気がします。

 組み体操の集団主義、「みんな一緒にやる」ことへの違和感を多くの人が抱いている。でも現場では、一体感や感動という言葉で、集団主義の問題点が覆い隠されています。

 組み体操の流行はユーチューブなど動画サイトや、教師向けの雑誌の影響が大きい。投書にあったように若い先生が特に熱心かはわかりません。広い世代の先生に組み体操は支持されていると思います。

 今回は組み体操を批判する意見がほとんどでしたが、僕のところには擁護派からの意見もかなり来ます。全否定するか、全肯定するかの両極端の意見が多い。重要なのは、組み体操のどこにどんなリスクがあるのかを冷静に見つめることです。

 「組み体操は危険だ」「安全だ」とただ言うのではなく、事故が起きた状況を検証し、情報を共有することが必要です。僕はピラミッドの最上段と最下段が一番危険だろうと考えていたのですが、最近の研究では、下から2、3段目の子が首などを痛めるケースが目立つ。事故が起きるメカニズムを具体的に解明しないと、問題の解決にはつながりません。

 10段のピラミッドだと、高さ7メートルにもなる。ここまで巨大化すると、もう制御がきかないのではないでしょうか。学校がそれでも例年通り続けるとしたら、リスク管理に問題があると言わざるをえません。(聞き手・尾沢智史)

記事に47件の反響

 2月17日のオピニオン面で、内田良・名古屋大准教授は、学校の部活動のスポーツ事故が多発していると指摘しました。運動会の組み体操でも骨折事故が後を絶たないのに、「感動」や「一体感」が優先されてリスクに目が向けられず、スポーツ科学の知識が教育現場に浸透していない問題があると論じました。

 坂上康博・一橋大教授は、部活動の精神主義が戦前の兵士養成のための体育から受け継がれ、第2次大戦後にむしろ強くなったと分析。日本社会では、学校を卒業して初めてスポーツを楽しめるようになる特殊な状況が続いてきたと読み解きました。

 記事に計47件の反響が寄せられました。運動会や組み体操についてが18件、スポーツ部活動14件、その他(学校の姿勢など)は15件。多かった運動会と組み体操について今回、改めて取材しました。

取材後記

 中学時、3段タワーの「最上階」でした。時折グラッと揺れる上で立ち、落ちたら! と思ったのは確かで、「親の感動が優先されている」という内田さんの言葉にはうなずけます。今回、実践側の2人の教諭の話を聞き、見栄え重視の組み体操の危なさや、事故が検証されないまま現場任せで推移してきたことなど、内田さんの指摘と重なる部分が多いと感じました。「難しい技でなくても皆が力を合わせて一つのものをつくることで喜びに包まれる」という垣内教諭の言葉に、運動会を見守る一父親としても賛同します。(編集委員・中小路徹

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