太平洋戦争の激戦地・パラオ共和国に向かった天皇、皇后両陛下。現地での宿泊先に選ばれたのが、海上保安庁の巡視船「あきつしま」だ。通常は領海警備などにあたる船で、船内の設備は宿泊には適していない。異例の措置がとられた背景に、両陛下の戦没者慰霊への強い思いがあった。

 「あきつしま」は全長150メートル、総トン数6500トンで世界最大級の巡視船だ。2013年11月に就役。沖縄・尖閣諸島の警備や東南アジアでの海賊対策や中国漁船によるサンゴ密漁の取り締まりといった重要任務を担っている。

 実は、両陛下のパラオ訪問は10年ほど前に検討されながら、断念した経緯がある。日本政府が建立した「西太平洋戦没者の碑」があるペリリュー島はパラオ中心部から南に約50キロ離れた小島。両陛下と随行員、警備関係者ら一行を乗せた旅客機が離着陸できる空港がなく、船で行き来するにも片道1時間以上かかる。両陛下への負担や安全面の問題が立ちはだかった。

 そこで浮上したのが海保巡視船に搭載されているヘリコプターだ。「あきつしま」には最大21人乗りのヘリ「スーパーピューマ225型」が2機搭載されている。両陛下が「あきつしま」に宿泊し、船から直接ヘリでペリリュー島に向かう計画によって、今回の慰霊の旅が実現することになった。

 だが、旅行用の客船ではないため、高齢の両陛下が宿泊するには不安もある。船内には段差や仕切りが多く、転倒する危険性が拭えない。貴賓室などはなく、両陛下は船長室に宿泊するが、そこに向かうには急な階段を上がらなければならない。お世話をする職員や侍医が待機する部屋も離れた場所だ。

 今回、両陛下用に船内に手すりをつけたり、通常は1人用の船長室内のレイアウトを変えたりするなどの対策が講じられた。決して快適とは言えない状況だが、両陛下は納得の上で計画を受け入れたという。宮内庁幹部は「戦没者慰霊を実現させたいという両陛下のお気持ちの表れでしょう」とみる。

 前侍従長の渡辺允さん(78)によると、天皇陛下は折々に「南太平洋に慰霊に行くことはできないか」との意向を述べていた。南太平洋とはパラオ、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦。今は観光地となっているが、陛下は「美しい海でどれだけ多くの犠牲者が出たか思い出して欲しい」とも話したという。

 今回、慰霊碑にはこの3カ国の大統領夫妻も同行し、ともに拝礼する。

 巡視船の運用をめぐっては、尖閣諸島周辺での領海警備の必要性が高まり、やり繰りが厳しい状態が続いている。宮内庁の風岡典之長官は会見で「(業務に)支障が無いということで利用させていただくことになった」と説明し、「戦後70年の特別な陛下のご訪問。大きな目的のために使うのは許されるのではないか」との見解を示した。別の宮内庁幹部も「巡視船からヘリで移動するのが一番円滑に日程をこなせる。ヘリがなければ今回の訪問は実現しなかった」と話している。(中田絢子、工藤隆治)