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 日本の医療研究の司令塔となる国立研究開発法人「日本医療研究開発機構」が1日、発足した。研究予算を一元化し、基礎から実用化まで橋渡しする役割を担う。「経済成長に結びつけたい」とする安倍政権の肝いりだが、応用ばかりを重視すれば将来の技術革新の芽をつむ懸念もある。

 「世界最先端の医療技術の実現につなげていただきたい。産業分野から見ても、成長戦略にも大いに資する」。3月25日、政府の健康・医療戦略推進本部で、安倍晋三首相は機構発足に期待を込めた。

 機構は文部科学、厚生労働、経済産業の3省がばらばらに支援してきた研究費を集約し、各大学や研究者に配分する。さらに各研究者の連携を強化し、新薬や医療機器の開発を目指す。

 予算規模は年間約1400億円で、職員は各省や大学、企業からの約300人体制。医薬品、再生医療、がんといった個々の研究分野を、産学連携、臨床研究・治験基盤、創薬支援戦略などの各事業部門がチェックし、異なる研究分野をつなぐ。知的財産や研究不正を監視する部門も置く。

 個々の予算配分や研究の進み具合のチェックは、「目利き役」として期間限定の研究者らが担う。30~40代の「若手」を積極的に登用する方針だ。

 欧米の先進国では、創薬など知識集約型の産業育成につながる研究に、予算を重点的に配分するのが流れだ。日本は、医薬品と医療機器について年数兆円の輸入超過が続いている。

 酒井敏行・京都府立医大教授(予防医学)は「日本の研究者が発がん原因遺伝子を見つけても、薬にするのは欧米企業。創薬に結びつける研究の専門家を育ててこなかった」という。

 そこで、安倍首相が2年前に旗振り役となり、米国立保健研究所(NIH)を参考に、「日本版NIH」の創設を表明。2020年までに約15の病気で再生医療の臨床研究・治験を始めるなど、中長期の数値目標を掲げた。

 実用的な成果を重視するあまり、その土台の基礎研究力の低下を心配する声もある。国立大学医学部長会議・付属病院長会議は昨年11月、日本の基礎医学研究費は円安による海外研究材料の高騰や消費増税などで実質10%近く減っていると指摘。高橋雅英・名古屋大医学部長は「今の流れが続けば基礎研究が空洞化する」と懸念する。

末松誠理事長「若手登用を積極的に」

 生命、生活、人生の三つのライフを具現化できる医療研究を応援したい。多くの人々の健康寿命の改善につながる精神神経疾患やがんだけでなく、難病や「診断もつかない病気」にも研究の力点をおく。患者数は少なくても原因が判明すれば、様々な要因が重なる生活習慣病の治療研究に応用できる。地域のかかりつけ医らとも協力し、研究成果を医療現場に展開していく仕組みをつくりたい。

 研究費の配分に不可欠な研究内容の評価には、若手に積極的にかかわってもらう。競争が激しい最先端の分野の動向に詳しいからだ。他人の研究を評価することで自分の研究に何が必要かがわかり、将来に役立つ。ベテランには研究分野全体をみて助言をもらう。

 応用だけでなく基礎研究も重要だ。特に多様性が大事で、実用研究で技術的なブレークスルーがあれば新たな基礎研究の種も出てくる。個性的で興味深い基礎研究を育てたい。(聞き手・桜井林太郎)

日本医療研究開発機構の主な中長期目標

(2020年ごろまで)

・医工連携で医療機器開発を100件

・医師主導治験の届け出を年40件

・再生医療の臨床研究・治験の対象疾患を約15件に

・日本発の革新的ながん治療薬で10種類以上の治験

・難病の新薬承認や既存薬の適応拡大を11件以上

     ◇

 「医療研究の『司令塔』始動」の記事(2日配信)で、日本の基礎医学研究費は「円高による」海外研究材料の高騰などで実質10%近く減っているとあるのは、「円安による」の誤りでした。訂正しておわびします。

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