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 横浜市の施設から行方不明になった認知症の男性(当時83)が昨年8月、東京都内の公園で死亡した。2日前に警察が2度接触しながら認知症と気付けず、行方不明者のデータベース(DB)に照会したり保護したりしなかった。徘徊(はいかい)する認知症の人をどうすれば救えるのか。

「熱中症か貧血かと」 119番した男性

 東京都中野区の路上に倒れていた男性に警視庁中野署員が接触したのは、昨年8月21日午前。名前をはっきりと答え、歩いて帰れるかどうか尋ねると「帰れる」と言った。

 男性は19日に横浜市鶴見区の通所介護施設から行方不明になり、家族はこの日、神奈川県警に行方不明者届を提出。名前などの情報は警察庁が管理するDBに入力され、全国の警察が照会できる状態になった。

 男性はカッターシャツにジーンズ姿。髪は黒々としていた。署員は近所の人と思い込み、DB照会をしなかった。男性は誤って生年月日を20年若く答えていたが、不審に思わなかった。

 男性に気づいて、119番通報した男性も、「熱中症か貧血のような状態で認知症とは思わなかった」と振り返る。署員は約300メートル離れた公園で男性を休ませ、現場を離れた。

 その日の夜。警察がもう一度、照会するタイミングがあった。

 「60代くらいの酔客が寝ている」。先の現場にほど近い公園のトイレで倒れている男性を通行人が見つけて通報した。男性は生年月日を聞かれても「大丈夫」と繰り返し、救急搬送も拒んだ。「家がないのか」と問うとうなずいたため、署員はホームレスと思い込んだ。

 2日後の朝、公園で男性の遺体が見つかった。死因は脱水症と低栄養。連日30度を超える暑さが続いていた。

 この日、署は初めてDBに照会。外見から「60~70歳」で検索したため、ヒットしなかった。後日、「50~80歳」に広げて再検索したが、83歳の男性の情報は表示されなかった。

 約2カ月半前に警察庁が「認知症の疑いのある迷い人を発見した場合、行方不明者照会をより広範囲に実施する」との通達を出したばかりだった。

 警視庁だけで1年間に受理する行方不明者届は約4千~5千件。効率化のため、年齢幅を狭めて照会する傾向があるという。地域総務課は「対応は適正を欠いたとは言い難い」とする一方、見た目の年齢にとらわれず積極的に行方不明者の情報を照会するよう先月、全署に指示した。

徘徊かも? 放っておかない

 今回の事例が浮き彫りにしたのは、認知症の「実像」が十分伝わっていないということだ。認知症は物忘れなどが中核的な症状だが、原因や進行度合いなどによって症状はさまざま。外見から判断がつかないとき、どう接すればよいのか。

 群馬県沼田市の「認知症にやさしい地域づくりネットワーク」運営にかかわる田中志子(ゆきこ)医師は、少し時間をかけて様子を見て、とアドバイスする。同じ場所を行ったり来たりするなど不自然な様子だったら声をかければいいという。

 不安そうだったり、答えがちぐはぐだったりする場合は「どちらに向かわれますか?」などと聞いてみる。1人で行動するのが難しそうだと思ったら「家族の人に連絡しましょうか?」と促したり、周囲に助けを求めたりすることも考えたほうがいいと言う。

 「大丈夫です」「いいです」と言われるかもしれない。「その時は時間を置いて、もう一度見に行ったり、心配な人がいると交番に伝えたり、という方法もある。こうすればいい、という正解はない」

 認知症の人が安心して外出できるまちづくりを目指し見守り・声かけの模擬訓練をする福岡県大牟田市。市認知症ライフサポート研究会代表の大谷るみ子さんは「(声をかけても)『来なくていい』と怒ったり、逃げたりする人もいる」と話す。そうした場合は「問い詰めるのではなく、いったんその場から離れ、高齢者施設に助けを求めたり、自治体の福祉窓口に連絡したりする方法もある」と助言する。

 「市民も見守りや声かけならできる。警察や消防、行政、地域包括支援センターなどの連携の強化も欠かせない。地域ぐるみで、気になる人を放っておかない、という意識を持つことが大切だ」。大谷さんは指摘する。

認知症で捜索願1万人超

 厚生労働省などによると、2012年時点での65歳以上の認知症の人は推計462万人。25年には約700万人に達するという予測もある。家族などから13年に警察に捜索願が出された認知症の人は、1万322人に上る。車を運転して死亡事故を起こしたり、徘徊して列車にはねられて家族が鉄道会社から賠償を求められたりする事例もある。

 北海道釧路市では、徘徊による死者が出たのをきっかけに、1994年に警察やタクシー会社、コンビニなどが情報を共有する「SOSネットワーク」を立ち上げ、14年までの21年間で686人の行方不明者を捜し、662人を保護した。

 ただ、こうした仕組みを導入しているのは、昨春時点で616市区町村。全国の3割程度にとどまっている。

 厚労省は05年から「認知症サポーター」の養成に着手。認知症特有の症状や接し方などを学んでもらい、認知症の人と出会った時に手助けできるようにする取り組みだ。3月末までに、住民や金融機関の従業員ら約611万人がサポーターになった。政府は、17年度末までに800万人に増やす目標を掲げている。