第73期将棋名人戦第1局の大盤解説会で「かつら芸」を披露する佐藤紳哉六段
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 羽生名人の話 「2手目は△8四歩のつもりだった。(本局の先手の作戦は)似た形は指したことがあったが、この組み合わせは知らなかった。(封じ手の△4三金左〈40手目〉は)他の手は成算が持てなかったので、しょうがないと思った。互いに目的がはっきりしない将棋だった。△6四角(58手目)で駒得になり、良くなったと思った。駒がぶつかった後の折衝で色々な可能性があったと思う。(第2局も)改めて頑張りたい」

行方八段の話 「独りよがりな作戦だった。△4三金左はあまり考えていなかった。封じ手の局面自体、どうだったかなと思う。△5三金寄(46手目)が全く見えておらず、困った。1手も指す手がわからなかった。作戦をとがめられた気がした。もうちょっと時間の使い方も考えないといけない。これじゃちょっと話にならないので、立て直して、もっとマシな将棋を指します」

羽生名人が開幕局制す

 【午後5時52分】第73期名人戦七番勝負第1局は、羽生名人が60手で開幕局を制し、2連覇に向けて好スタートを切った。残り時間は行方八段が29分、羽生名人が1時間38分。第2局は22、23日に岐阜県高山市で指される。

 羽生名人の△4三銀(60手目)を見た行方八段は14分考えて、投了の意思を示した。羽生名人が優勢とみられていたが、行方八段の玉がすぐに詰むような局面ではないだけに、突然の投了だった。大盤解説会のモニターには行方八段が頭を下げる姿が映し出され、来場者の「えっ」という驚きの声があちこちで漏れた。(村瀬信也)

今泉新四段の見解

 【午後5時16分】戦後の将棋史上最年長の41歳でプロ入りを決め、4月1日付でプロ棋士になった今泉健司さん=広島県福山市在住=も、控室での検討の輪に加わっている。大盤解説会にも飛び入りで参加してくれて、「楽しかったです」と元気いっぱいだ。

 「少し前までは大変な形勢だと思っていましたが、行方挑戦者が勝負になる順を見送ってしまったのではないでしょうか? 早い終局もあり得ますね」と見解を述べてくれた。今泉新四段の見立ては、羽生名人リードだ。(佐藤圭司)

挑戦者、全面戦争を決行

 【午後4時】NHKのBS中継が始まった。解説は森内俊之九段で聞き手は安食総子女流初段が務めている。

 ちょうどその直前、行方八段が銀取りにかまわず▲5四歩(49手目)と突き、全面戦争を決行していた。盤の中央で双方の駒がせめぎ合い、激しい展開へと進んでいる。長考派の行方八段は、残り時間が1時間を切った。

 控室では、行方八段と同い年の野月浩貴七段が検討している。共に地方出身で中学生の頃から1人暮らしを経験し、修業時代の苦労を語り合った間柄だ。「名人戦とあって、期するものがあると感じる。2年前、王位戦七番勝負を経験し、今回は和服を着慣れているようにも見える。実力を出し切った勝負が見たい」と話した。(村瀬信也)

サッカーの波戸さん、小村さん来る

 【午後3時30分】将棋とサッカーのコラボに熱心に取り組んでいる深浦康市九段と野月浩貴七段が、スペシャルゲストを伴って、控室に訪れた。横浜F・マリノスで活躍した波戸(はと)康広さんと小村徳男(おむら・のりお)さん。将棋とサッカーのコラボ企画について打ち合わせをした後、名人戦を見てもらいたくて、来てもらったという。波戸さんは日本将棋連盟親善大使でもある。対局室を見学した波戸さんは「羽生さんにオーラを感じました」と感嘆した後、「このままボクが名人戦を戦おうかと思いました」とジョーク一発。羽生さんと目が合ったという小村さんは「これが羽生ニラミか、と思いました」と、うれしそう。

 4人一緒に大盤解説会の舞台にも上がり、会場を埋める約220人の聴衆を前に、現局面について感想を話した。深浦九段は「行方さんは(自分の方が)良いとは思ってませんね」「羽生名人の陣形もバランスが取りにくい。これを指しこなすのが名人の力」などと解説していた。(佐藤圭司)

おやつ

 【午後3時】対局室におやつが運ばれた。羽生名人の注文はフルーツ盛り合わせ(メロン、マンゴー、イチゴ、サクランボ、スイカ)とホットコーヒー。行方挑戦者の注文はイチゴのショートケーキとホットコーヒー。

 おやつの取材のために対局室の近くに行くと、行方挑戦者が部屋の外のソファーに座って、体を休めていた。(佐藤圭司)

棋士が続々登場

 【午後2時15分】休憩前に引き続き、行方八段は考え続けている。その間、控室の棋士が増え、にぎやかになってきた。これから決戦を迎えそうな局面とあって、検討にも熱が入っている。

 中でも盛り上がっているのが、佐々木勇気五段や千田翔太五段ら20代前半の俊英たちが検討している継ぎ盤だ。若手棋士限定の加古川青流戦で優勝経験がある佐々木五段は「羽生先生の模様が良さそうな雰囲気でしたが、歩損も大きい。いい勝負です」。三枚堂達也四段は「先手は3七の銀が取り残されたらまずいです」と指摘する。順位戦C級1組に昇級したばかりの千田翔太五段は「後手の方が方針を立てやすい。ただ、難解ですね」と話した。

 人より先にアイデアを披露したり、それに疑問を呈したり。近年はインターネットを通じて対局の中継が見られるが、現地で仲間と意見をぶつけ合いながら研究する棋士の姿は失われていない。(村瀬信也)

対局再開

 【午後1時30分】昼食休憩が終わり、対局が再開した。羽生名人は時間通りに部屋に戻ってきたが、手番の行方挑戦者が戻ってきたのは午後1時39分。記録係の川崎直人三段が「行方先生、残り2時間と28分です」と声をかけた。羽生名人の残り時間は3時間46分だ。(佐藤圭司)

昼食休憩

 【午後0時30分】昼食休憩に入った。羽生名人の注文はピザマルゲリータとオレンジジュース。行方挑戦者はカレーライス(ビーフ)とホットコーヒー。ご飯はバターライスで、付け合わせはパルメザンチーズ、福神漬け、ピクルス、パールオニオン(小さなタマネギの酢漬け)。

 前述のホテル椿山荘東京のレストラン担当接客支配人の俵木章浩さんは「羽生名人は、どちらかと言うと軽めのお食事を好まれる気がする」と教えてくれた。その言葉通りのチョイスだ。昨日に続く、行方挑戦者のビーフカレーの注文に、別の担当者は「気に入っていただけたんでしょうか」と笑顔だった。

 封じ手の△4三金左が開かれてから、午前9時から3時間半の間に、指し手は6手しか進まなかった。力のこもった、ねじりあいといった感じの手が続いている。(佐藤圭司)

現地での大盤解説会

 対局場のホテル椿山荘東京では午後1時半から大盤解説会が開かれる。解説は石田直裕四段、聞き手は藤田綾女流初段。立会人の塚田泰明九段、副立会人の広瀬章人八段、田村康介七段らも適宜、登壇する予定だ。当日入場料は2千円。

 会場内では、棋士直筆サイン色紙が特別料金の3千円で販売される。塚田九段も局面の検討の合間に「遊心」などと揮毫(きごう)してくれた。昨日は、木村一基八段のサイン色紙が一気に6枚売れて、すぐに品切れに。どうやら熱心な木村ファンがいたようだ。色紙の収益金は、東日本大震災の復興支援のために役立てられる。(佐藤圭司)

阿川佐和子さんが見学

 【午前9時】今朝の再開時、対局場に作家・エッセイストの阿川佐和子さんの姿があった。14日に週刊文春の企画で羽生名人と対談を予定しており、勝負の現場を見学するために訪れた。

 これまでに故・米長邦雄名人や谷川浩司九段らと対談の経験がある。共通して感じたのは「みんなシラウオのような(白くて細い)指をしている」ということ。今日は棋士の様々な所作が気になったという。「羽生さんが駒を動かす際、左手で体を支えている姿に色気を感じた。はかまの扱いは行方さんより羽生さんの方が慣れているようですね」(村瀬信也)

8年連続で第1局の椿山荘

 対局場のホテル椿山荘東京は、広大な日本庭園で有名。2月下旬から4月上旬まで約21品種120本の桜が次々に咲き誇る。今年は先週の日曜の雨で、満開だった桜の花びらは散ってしまったとのこと。結婚式場としても有名だ。

 将棋名人戦第1局は、朝日新聞と毎日新聞の共催形式が始まった第66期から8年連続でホテル椿山荘東京で指されている。8年連続で名人戦を担当し続けてくれているのが、レストラン担当接客支配人の俵木(たわらぎ)章浩さん(61)。「名人戦はとても人気が高いイベント。ご年配の方だけでなく、意外に若い女性の方も大盤解説会に来てくださる。対局で使った部屋に後日、別のお客様をご案内すると、『あ~、ここですか!』と喜んでくださいますね」。今回も畳を新調し、準備を整えてくれた。

 最も大切に思っているのは、対局者のコンディションだという。その日の様子を見ながら、話しかけたり、そっとしておいたり。対局室内を映し出すモニターを見ながら、「お水をたくさん飲んでおられたようでしたので」と、すぐに水対策を講じた。軟水と硬水、両方を用意し、好みの方を察して、補充する。それほどの細やかさだ。「大事な初戦ですので、お二人に、うまく立ち上がっていただきたい」と俵木さんは優しい笑顔で話した。(佐藤圭司)

名人の封じ手は△4三金左、2日目始まる

【午前9時】羽生善治名人(44)に行方尚史八段(41)が挑戦する第73期将棋名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催、大和証券グループ協賛)の第1局は9日、東京都文京区のホテル椿山荘東京で再開され、2日目に入った。

 1日目の指し手が並べ直され、午前9時、立会人の塚田泰明九段が封じ手を開封。後手番の羽生名人が8日夕に封じていた40手目は△4三金左だった。候補の一つには挙がっていたが、本命ではなかった。

 副立会人で新聞解説の広瀬章人八段は「守りの金を中央付近に用いて、玉の堅さよりもバランスを重視した手。臨機応変な『羽生流』といった感じです。これから読み比べになります」と話している。

 行方挑戦者は眼鏡を外し、考えている。対局は9日夜までに終局する見込み。(深松真司)

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