[PR]

 代助(だいすけ)が嫂(あによめ)に失敗して帰った夜(よ)は、大分(だいぶ)更(ふ)けていた。彼は辛うじて青山(あおやま)の通りで、最後の電車を捕(つら)まえた位である。それにもかかわらず彼の話している間には、父も兄も帰って来なかった。尤(もっと)もその間に梅子(うめこ)は電話口へ二返呼ばれた。しかし、嫂の様子に別段変った所もないので、代助はこっちから進んで何にも聞かなかった。

 その夜(よ)は雨催(あめもよい)の空が、地面と同じような色に見えた。停留所(ていりゅうじょ)の赤い柱の傍(そば)に、たった一人立って電車を待ち合わしていると、遠い向うから小さい火の玉があらわれて、それが一直線に暗い中を上下(うえした)に揺れつつ代助の方に近(ちかづ)いて来るのが非常に淋(さび)しく感ぜられた。乗り込んで見ると、誰もいなかった。黒い着物を着た車掌と運転手の間に挟まれて、一種の音に埋(うず)まって動いて行くと、動いている車の外は真暗(まっくら)である。代助は一人明るい中に腰を掛けて、どこまでも電車に乗って、終(つい)に下りる機会が来ないまで引っ張り廻(まわ)されるような気がした。

 神楽坂(かぐらざか)へかかる…

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

980円で月300本まで有料記事を読めるお得なシンプルコースのお申し込みはこちら

こんなニュースも