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 のねずみの双子、ぐりとぐらがうまれたのは1963年。ふんわり黄色いカステラをいっしょに食べたいなあ。そんな子どもたちが今も増えています。ぐりとぐらの世界へ春の遠足にいきませんか。

 かわいい子たちにおいしいカステラをおなかいっぱい食べさせたい――。「ぐりとぐら」の作者、中川李枝子(りえこ)さん(79)は保育士として子どもたちに接し、そんな思いで書いたと新刊「子どもはみんな問題児。」(新潮社)につづっている。

 読み継がれて半世紀。関連本もあわせて2490万部というロングセラーとなった。原画でその世界をたどる「ぐりとぐら展」が、5月31日まで兵庫県伊丹市の市立美術館・工芸センターで開かれている。本紙夕刊の企画「女子組」では、読者と展覧会を訪ねる女子会を催した。

 子どもの本専門店メリーゴーランド京都店長、鈴木潤さん(42)を案内人にして見学した参加者の声は――。

 塾を経営する勝部仁恵(ひとえ)さん(40)は15歳と5歳の子をもち、もう一度この本に出会った。「絵本の中ではカステラを仲良く分け合って食べて、夢のような明るい愉快な時間に浸ってほしいという気持ちが伝わってくる」

 公務員の木村亜紀子さん(40)はいう。「みんなで食べる場面が印象的です。そこに生き物の優劣はない。生き物の違いをこえて、包み込む場に感じられます」

 会社員の柴田真理子さん(30)はイラストレーターをめざす。「大人になるときれいごとではないことも知り、純粋な気持ちでいられなくなるけれど、ぐりとぐらの世界に一歩足を踏み入れると、ほっこりとしたやさしい気持ちがわいてきます」(河合真美江)

勝部仁恵さんの感想

 慌ただしく過ぎる一日の終わりを5歳の娘への読み聞かせで終えます。

 光を落とした部屋でささやくような小さな声で読み聞かせる本は、穏やかに明るくて、恐ろしいものが出てこず、閉じたときに温かい気持ちになれるもの、やさしい気持ちになれるもの。

 「ぐりとぐら」のシリーズは、私自身親しんで育ち、子どもが生まれてもう一度出会った絵本です。

 目にカラフルなのにけっしてくどくないイラストと、外国を思わせるインテリアや生活雑貨、そしてのびやかに暮らす双子の野ねずみ。

 読み聞かせる私もまた絵本に引き込まれ、日常の雑事から解放されて物語に遊ぶ、癒やされる時間です。

 今回、山脇百合子さんの原画を見ることで、はっきりとした明るい色を多用しているけれど、いずれも透ける質感を感じさせるから目にうるさくないのだということ、余白を残して塗り込まないからさわやかさが感じられるのだということを実感できました。

 展覧会の会場で上映されている宮崎駿さんとの対談で語られる「どうしてカステラなのか」のくだりから、私たちは中川李枝子さんの子どもたちに対する深い深い共感と愛を知ることになります。

 せめて絵本の中では、普段なかなか口に出来ない高価なカステラを、みんなで仲良く分け合っておなかいっぱい食べてもらいたい。ちょっと現実から離れて、夢のような明るい愉快な時間に浸ってもらいたい――。そんな中川さんと山脇さんの思いが作品から受けとれました。

 会場には、大きな卵や、通りぬけ出来る壁などもあり、愉快な構成になっています。

 目を輝かせて小さな息子に原画やストーリーの解説をしている若いお父さんの姿があちこちで見られ、子どものころを懐かしく思い出してらっしゃるんだろうか、とほほ笑ましく感じました。

 講師の鈴木さんのお言葉にあった「電子書籍がどれだけ発達しようとも、紙の絵本はきっと無くならない。なぜなら絵本は情報じゃないから」という言葉に深く同意します。

 譲ってくれた人の名前が油性ペンで書かれていたり、落書きされていたり、角がまあるくなっていたり。古くなった本を手に取るとこみ上げてくる懐かしさ。それもまた大切な宝物になっていくことを、私たちは知っているからです。

木村亜紀子さんの感想

 今回、ぐりとぐらがみんなでおいしいものを食べる場面を前に、私は泣きそうになりました。

 鑑賞前に鈴木潤さんから、「ぐりとぐら」の最後のみんなでカステラを食べるシーンの蟹(かに)さんが好き、とお聞きしました。私は蟹の記憶がありませんでしたので、原画をじっくり見ると確かに、蟹さんがいます。親子でしょうか、3匹。小鳥、とかげ、もぐら、かたつむり、へびがいます。ライオン、イノシシ、象、狼(オオカミ)にワニもいます。

 「ぐりとぐらとすみれちゃん」でも最後にぐりとぐらはみんなでおいしいものを食べます。みんなで作って、みんなで食べる。そこには生きものたちの優劣はなく、みんな普通にそこにいます。普通ならライオンは野ねずみやうさぎを食べてしまってもおかしくないのに。

 日常生活にこんな場面があるでしょうか。性別、年齢、職業、人種、収入が異なる人たちが一緒に何かをして一緒に食卓を囲む。私には「ぐりとぐら」の食べものの場面が生きものたちの違いを包み込む場に感じられました。違いがあってよくて、違いがあるのが当たり前という生活……。

 これらのシーンを涅槃図(ねはんず)に例えた方がありました。例えば、仏事のあとにはみんなで食事をします。それらと同じことが「ぐりとぐら」に描かれているのではないでしょうか。こんなことを考えるのは大人だからなのでしょう。

 こどもたちが「ぐりとぐら」の食べもののシーンで無意識に「みんな違っていい」を感じるのであれば、「みんな違っていい」を感じたこども、感じたことのある大人が大勢いることになります。そう考えると少しわくわくします。

 そして、こどもが初めて「ぐりとぐら」の食べもののシーンに出会うときはどんな気持ちなんだろう。その場に遭遇したくなりました。

柴田真理子さんの感想

 「かわいい!」「おいしそう!」といったイメージだけにとどまらず、原画をよく見ると、消しゴムで下書きの線を消した跡があったり、その場面に登場させる小物の名称が一つひとつ鉛筆で書かれていたりと、「絵本」という完成形では決して見ることの出来ない制作の過程をも垣間見ることができ、新たな気付きや発見がたくさんありました。

 子供の頃は、完全に読み手側の視点で捉えていましたが、大人になった今は、読み手側の視点プラス、制作側の視点でも作品を見るようになっていて、「どういうことを伝えたかったのだろう?」「この場面では、こういう雰囲気を出したかったのだろうな」などと、色々なことを想像しながら楽しめました。

 大人になっていくにつれ、きれいではない物事も知り、経験し、いつも純粋な気持ちでいられることがだんだん難しくなってきているように感じますが、ぐりとぐらの世界に一歩足を踏み入れると、無条件にほっこりとした、優しい気持ちが湧いてくるのを感じました。

 ちょっとかたくなな大人の心さえも柔らかくしてしまう、このような真の良い作品に子供の頃からできるだけたくさん出会い、触れ合うことが、人生において大きな財産になるような、そんな気がしました。

 そして「誰かのために……!」と思う気持ちは、やはり他のどんなものにも負けない、大きな原動力になるのだということを、「子供たちをもっと喜ばせたい!」という思いでぐりとぐらを誕生させたという中川さんのエピソードから、改めて実感しました。

 本当に素晴らしいものに出会い、「この人のために何かしたい!」と思えるような人がいる。それってものすごく幸せだなぁ……。

 温かい気持ちになった一日でした。

     ◇

 〈「ぐりとぐら」〉 のねずみのぐりとぐらはお料理すること、食べることが大好き。森で見つけた大きな卵でカステラを焼き、動物たちと一緒に食べる。ハードカバー、ソフトカバーあわせて625万部。関連本も20冊あり、世代をこえて愛される。フランス語や中国語など10の言語に訳され、11カ国・地域に広がる。

     ◇

 「ぐりとぐら展」は5月31日まで、兵庫県伊丹市宮ノ前2の5の20、伊丹市立美術館・工芸センターで。月曜休館(5月4日は開館し7日休館)。一般900円、大学・高校生500円、中学・小学生200円。問い合わせは伊丹市立美術館(072・772・7447)。

落書き・破れ… 絵本に残る思い出

 絵本の力って? 鈴木潤さんに聞いた。

 この場面が好き、このフレーズをお母さんの口から聞きたい。そんなふうに絵本を開くひとが多いのでは。私は「ぐりとぐら」のカステラを食べる場面で、カニが隅っこでカステラを持っているのがかわいくってしょうがない。

 多くのひとがこの絵本を読んで育って、大人になって自分の子どもとまた出会えるのはすばらしい。私も子どものころ読んで、長男(5)が4歳ぐらいになって読みました。「ぐりとぐら知らへん」ていうので。

 電車の中でもお母さんのひざでも、絵本を開けばそこにぐりとぐらがいる。絵本は子どものためのものじゃない。子どもから読めて、大人も楽しめるものなんです。

 「ぐりとぐら」を50年超えて出し続ける福音館書店もすばらしいし、子どもに届けた幼稚園や保育園も。私も本屋として、いい本を絶やしてはいけないという責任がある。出版は文化をつくることですから。

 電子書籍が広がっていますが、絵本は紙の形で残ると思う。情報ではないから。なめたり落書きしたり、破れてボロボロになってテープをはったり。絵本にはその子だけの記憶が刻まれていく。ほかにかえようがない。そこが絵本の大事なところだと思います。

山脇百合子さん「母と焼いたスポンジ」

 中川さんの妹で「ぐりとぐら」の絵を描いた山脇百合子さん(73)に話を聞いた。

 ――大きな卵。いきなり心をわしづかみにされます。

 「たまご」という姉の童話が月刊誌「母の友」に載り、私が白黒のカットを描いたんです。ネズミが2本足で立っていい? 洋服を着せてもいい? 姉に聞いたら、いいって。そして「ぐりとぐら」の絵本になることになって。

 ――色がつくんですね。

 動物をよく描く藪内正幸さんに…

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