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 一時間の後(のち)、代助は大きな黒い眼を開(あ)いた。その眼は、しばらくの間一つ所に留(とど)まって全く動かなかった。手も足も寐ていた時の姿勢を少しも崩さずに、まるで死人のそれのようであった。その時一匹の黒い蟻(あり)が、ネルの襟(えり)を伝わって、代助の咽喉(のど)に落ちた。代助はすぐ右の手を動かして咽喉を抑えた。そうして、額(ひたい)に皺(しわ)を寄せて、指の股(また)に挟んだ小さな動物を、鼻の上まで持って来て眺めた。その時蟻はもう死んでいた。代助は人指指(ひとさしゆび)の先に着いた黒いものを、親指の爪(つめ)で向(むこう)へ弾(はじ)いた。そうして起き上がった。

 膝(ひざ)の周囲(まわり)に、まだ三、四匹這(は)っていたのを、薄い象牙(ぞうげ)の紙小刀(ペーパーナイフ)で打ち殺した。それから手を叩(たた)いて人を呼んだ。

 「御目醒(おめざめ)ですか」…

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