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 三千代の頰(ほお)に漸(よう)やく色が出て来た。袂(たもと)から手帛(ハンケチ)を取り出して、口の辺(あたり)を拭(ふ)きながら話を始めた。――大抵は伝通院前(でんずういんまえ)から電車へ乗って本郷(ほんごう)まで買物に出るんだが、人に聞いて見ると、本郷の方は神楽(かぐら)坂(ざか)に比べて、どうしても一割か二割物が高いというので、この間から一、二度こっちの方へ出て来て見た。この前も寄るはずであったが、つい遅くなったので急いで帰った。今日はそのつもりで早く宅(うち)を出た。が、御息(おやす)み中だったので、また通りまで行って買物を済まして帰り掛けに寄る事にした。ところが天気模様が悪くなって、藁店(わらだな)を上がり掛けるとぽつぽつ降り出した。傘を持って来なかったので、濡(ぬ)れまいと思って、つい急ぎ過ぎたものだから、すぐ身体(からだ)に障(さわ)って、息が苦しくなって困った。――

 「けれども、慣れっこになってるんだから、驚ろきゃしません」といって、代助を見て淋(さみ)しい笑い方をした。

 「心臓の方は、まだ悉皆(すっ…

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