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 その時代助の脳の活動は、夕闇(ゆうやみ)を驚ろかす蝙蝠(かわほり)のような幻像をちらりちらりと産み出すに過ぎなかった。その羽搏(はばたき)の光を追い掛けて寐ているうちに、頭が床(ゆか)から浮き上がって、ふわふわするように思われて来た。そうして、何時の間にか軽い眠(ねむり)に陥った。

 すると突然誰(だれ)か耳の傍(はた)で半鐘(はんしょう)を打った。代助は火事という意識さえまだ起らない先に眼を醒(さ)ました。けれども跳(は)ね起きもせずに寐ていた。彼の夢にこんな音の出るのは殆(ほと)んど普通であった。ある時はそれが正気に返った後(あと)までも響いていた。五、六日前彼は、彼の家の大いに揺れる自覚と共に眠を破った。その時彼は明らかに、彼の下に動く畳の様を、肩と腰と脊(せ)の一部に感じた。彼はまた夢に得た心臓の鼓動を、覚めた後(あと)まで持ち伝える事がしばしばあった。そんな場合には聖徒(セイント)の如く、胸に手を当てて、眼を開けたまま、じっと天井を見詰めていた。

 代助はこの時も半鐘の音が、じ…

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