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 「完勝だよ、これ」

 4月14日午後2時、福井地裁1階の書記官室。住民側弁護団の河合弘之弁護士は、決定文を受け取り、思わずうなった。

 主文 債務者(関西電力)は福井県高浜町において、高浜発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない――。

 再稼働禁止の仮処分決定。

 仮処分はただちに法的拘束力を持つため、関西電力は今後の司法手続きで決定が取り消されない限り、再稼働することができない。司法が現実に原発を止めるのは初めてのことだ。

 決定文にはこうも記されていた。

 新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない――。

 原子力規制委員会が定め、政府が「世界で最も厳しい」と言う新基準そのものを否定していた。河合弁護士の期待をはるかに上回る内容だった。

 記者会見で河合弁護士は強調した。「新基準の無効性を宣言した。日本中の原発再稼働をすべて禁止したと言っても差し支えない。国と電力会社に、脱原発に舵(かじ)を切ることを強く求める」

 原発史に残るであろう今回の決定。背景にはさまざまな攻防があった。

     ◇

 河合弁護士は「脱原発弁護団全国連絡会」の代表を務める。大阪市の橋下徹市長のブレーンとして大阪府市エネルギー戦略会議の委員に就き、監督として映画「日本と原発」を制作した。脱原発を訴え続けても、国と電力会社が原発再稼働に突き進む現状に、忸怩(じくじ)たる思いを抱いていた。

 昨年11月、東京都内の法律事務所を取材で訪ねた。河合弁護士は昼食を取りながら、ある計画を披露してくれた。福井地裁に関電高浜、大飯両原発の運転差し止めの仮処分を申し立てるという。「大津で負けたら行動に移す」。高浜、大飯両原発は再稼働に向けた規制委の審査が進み、高浜3、4号機は近く「合格」となる見通しにあった。

 取材の2週間後、大津地裁は滋賀や京都、大阪の琵琶湖・淀川流域の住民らが求めた高浜、大飯両原発の再稼働禁止の仮処分の申し立てを却下した。仮処分の手続きは、通常の裁判で判決を待っていると取り返しのつかない損害が生じる時などに暫定的な措置を求めるものだ。大津地裁は規制委の審査が終わっていないことを理由に、差し止める緊急性がないと判断した。

 ただ、こうも指摘した。

 「避難計画等も現段階においては何ら策定されておらず、これらの作業が進まなければ再稼働はあり得ない」

 「規制委がいたずらに早急に、新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたい」

 負けたが、河合弁護士は評価した。「避難計画に実効性がなければ原発を動かしてはダメだと明示してくれた。このまま規制委が判断すれば司法は認めない、と言ってくれたに等しい」

 河合弁護士は予定通りの行動に出た。昨年12月5日、福井、京都、大阪、兵庫各府県の住民らの弁護団として、高浜、大飯両原発の運転差し止めの仮処分を、今度は福井地裁に申し立てたのだ。福井地裁では昨年5月、大飯原発3、4号機の運転差し止め訴訟で、住民側の請求を認める判決が出ていた。原発の運転停止で多額の貿易赤字が出るとしても、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失である――。判決文はそう記し、原発の稼働を経済活動の自由に過ぎないと断じて人格権を優先して差し止めを認めた。

 この裁判は双方が控訴して名古屋高裁金沢支部で審理が続いているが、このときの判決文をまとめたのが樋口英明裁判長だった。河合弁護士の関心は、仮処分の申し立てについても樋口裁判長が審理するかどうか、その一点に尽きた。東京や大阪などの大都市の地方裁判所と異なり、福井地裁は裁判官が少ない。民事事件を扱う複数の裁判官による合議体は2部しかない。

 年末になると、規制委は高浜3、4号機が新基準を満たすと判断。いよいよ再稼働が現実味を帯びつつあった。

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