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 代助は今まで冗談にこんな事を梅子に向っていった事が能(よ)くあった。梅子も始めはそれを本気に受けた。そっと手を廻(まわ)して真相を探って見たなどという滑稽(こっけい)もあった。事実が分って以後は、代助のいわゆる好いた女は、梅子に対して一向利目(ききめ)がなくなった。代助がそれをいい出しても、まるで取り合わなかった。でなければ、茶化していた。代助の方でもそれで平気であった。しかしこの場合だけは彼に取って、全く特別であった。顔付(かおつき)といい、眼付といい、声の低い底に籠(こも)る力といい、此所(ここ)まで押し逼(せま)って来た前後の関係といい、凡(すべ)ての点からいって、梅子をはっと思わせない訳に行かなかった。嫂はこの短い句を、閃(ひら)めく懐剣(かいけん)の如くに感じた。

 代助は帯の間から時計を出して見た。父の所へ来ている客はなかなか帰りそうにもなかった。空はまた曇って来た。代助は一旦(いったん)引き上げてまた改ためて、父と話を付けに出直す方が便宜だと考えた。

 「僕はまた来ます。出直して来…

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