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 戦後の安全保障政策の転換点となる法案が26日、衆院本会議で審議入りした。国民の支持を与党はどう広げるのか。かみ合わない論戦を野党はどう打開するのか。初日は、本会議場にヤジが飛び交う、荒れ模様の幕開けとなった。

 この日の本会議。質問に立った民主の枝野幸男幹事長に対し、自民の一角からヤジがわき上がった。国会の勢力比を映すかのように、安倍晋三首相への野党のヤジより一段と大きい。

 共産の志位和夫委員長が質問した際には、壇上の安倍首相が答弁の合間に、ゆっくりとコップに水をついで飲み干す場面も。このパフォーマンスに自民席に笑い声と拍手が広がった。答弁でも、自衛隊が戦闘に巻き込まれる懸念などを問いただす志位氏に対し、「ご指摘はあたりません」と計4回繰り返した。

 審議の合間では大島理森議長が「発言が国民の皆様にしっかり伝わるよう静粛な議論を望みます」とヤジを制止する場面もあった。

 「政府の答弁は不誠実だ」。本会議後、民主の寺田学氏=比例東北=は不満をあらわにした。「法律によって、どんな活動が拡大されるのか。政府には正直に話してもらいたい。リスクが高くても必要な活動だと政府が説明した上で、本当にその活動が必要なのかを議論すべきだ」

 だが、27日から本格的な審議を始める特別委員会の構成も全45人に対し、自公が32人を占める。

 野党も足並みは一つではない。維新の青柳陽一郎氏=比例南関東=は、「憲法上どこまで許されるのか、具体的にどんなリスクがあるのか明らかにしていかないといけない」と追及姿勢を見せる一方で、「我が党のスタンスは日米同盟が基軸。日本が世界の平和と安定に対して国際協力をしないといけないという点では与党と同じ」と語る。

 審議が後半に進むにつれて退席が相次ぎ、本会議場は空席が目立っていった。

 一強多弱の政治情勢のなか、与党も難題を抱える。

 朝日新聞の最新の世論調査では、安全保障法制関連11法案を今国会で成立させる必要性があるかという質問に対し、「必要はない」が60%で、「必要がある」は23%。賛否は国会の内と外でねじれている。

 「法案について、よく理解できていない方が多い印象だ」。法案をまとめた与党協議メンバーだった公明の遠山清彦氏=比例九州=は語る。地元の有権者に対して勉強会を重ねており、「丁寧に説明するしかない。分かってもらえる手応えはある」という。

 安倍首相もこの日、分かりやすく丁寧な説明を心がける、と2回繰り返した。ただ、こう付け加えるのを忘れなかった。「今国会における確実な成立を期して参ります」

「人の命の問題」国会前、抗議の声

 「戦争法案、今すぐ廃案!」「戦争する国、絶対反対!」。本会議開会を1時間後に控えた正午、国会前には約900人(主催者発表)が集まり、抗議の声を上げた。作家の鎌田慧さんらが発起人の「戦争をさせない1000人委員会」などが呼びかけ、民主、共産、社民などの国会議員も加わった。

 東京都小金井市の主婦、浅野由紀子さん(65)は、自衛隊員のリスクをめぐる議論について、安倍首相が「木を見て森を見ない議論が多い」と発言したことに疑問を感じて来た。「人の命の問題。首相は日本の安全のためと言うが、実際はアメリカのために隊員の命を軽んじているのでは」

 同じころ、国会内では、イラクへの医療支援を行っているNPO「日本イラク医療支援ネットワーク」事務局長の佐藤真紀さんが、元陸上自衛隊員とともに議員学習会を開いていた。

 「国民は、自衛隊員の問題だと思っているかもしれないが、NGOにとってもリスクは増すことになる。机上の空論ではなく、現場の声を聞いてほしい」

 衆院本会議場では午後1時15分すぎ、中谷防衛相の趣旨説明が始まった。

 東京都東村山市の元地方公務員の男性(67)は妻(66)と初めて傍聴に来た。「再び戦争になるのでは。黙って家にいられない」。傍聴席には空席も目立った。「戦後日本の重大な岐路なのに」と驚いた。

 本会議では安倍首相の強い口調に危機感を抱いた。「根拠のある中身で議論を促すというより、自分の意見を言い切っているだけに思えた。数の力で押し切るのではないかと不安になった」という。