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 「甲状腺がんは、原発のせいだ」

 韓国の裁判所で、こんな判決が出たのをきっかけに、原発周辺に暮らす甲状腺がん患者やその家族が続々と、原発を動かす公営企業を相手に裁判を起こしている。

 韓国で最初にできた釜山市の古里(コリ)原発。1978年に1号機が稼働を始め、現在は6基の原子炉建屋が日本海(韓国名・東海)沿いに並ぶ。この原発から約7・7キロのところに20年ほど暮らす李真燮(イ・ジンソプ)さん(51)の一家が起こした裁判が、甲状腺がん患者らが次々と立ち上がる「起爆剤」になった。

 2011年、東京電力福島第一原発事故が起きたころ、李さんは直腸がんになった。約1年後には妻(49)も甲状腺がんと診断された。長男は先天性自閉症の障害を持って生まれた。韓国でも連日報じられた福島の原発事故の惨状を見て、李さんは「家族の病気や障害は、原発がまき散らした放射性物質のせいではないか」と考えるようになった。事故翌年の12年、李さん一家は韓国にあるすべての原発を管理運営する公営企業「韓国水力原子力(韓水原)」を相手に、損害賠償の支払いを求める裁判を釜山地裁に起こした。

 支援者もほとんどいない「孤独な闘い」を約2年続け、14年10月、判決の日を迎えた。しかし、「当然敗訴するだろう」と思われたのか、取材に来るメディアも支援する環境保護団体のメンバーもいなかったという。

 「被告は、1500万ウォン(168万円)を妻に支払え」。裁判長は、李さんと長男の訴えは「原発の放射線放出との間に因果関係を認めるには証拠が足りない」として退ける一方、妻の甲状腺がんについては「原発付近に居住し、相当期間、原発から放たれた放射線にさらされた。このため、甲状腺がんと診断を受けたとみるのが相当だ」として原発と甲状腺がんの因果関係を認めたのだ。

 福島の原発事故を機に、韓国では原発周辺の住民が詳しい健康診断を受けるようになった。2012年2月に甲状腺がんと診断された李さんの妻も、そうした一人だった。

 釜山地裁判決がポイントとして挙げたのは次のような点だ。

○甲状腺がんの発生には、放射線にさらされることが決定的な要因として作用することが知られている。

○女性は原発から10キロ圏に20年近く暮らし、放射線に長期間さらされてきたとみられる。

○女性の甲状腺がんの発生には、原発から放出された放射線以外に、原因があると思える明確な材料がない。

○原発周辺地域の住民の疫学調査の結果、原発から5キロ~30キロ離れた地域でも、遠く離れた地域よりも1・8倍高い発生率を示している。女性が暮らしてきた地域を、原発から流出した放射線の影響を受けない地域とみなすのは困難だ。

○ほかのがんと異なり、甲状腺がんの場合、原発からの距離と発生率とに相関関係があるという調査結果が出ている。

 さらに、韓国の司法関係者が注目したのは、別の公害訴訟で大法院(最高裁)が示した加害企業の賠償責任に関する判断基準を、原発にもあてはめたことだ。

 裁判所は「加害企業は技術的、経済的に被害者よりもはるかに原因の調査が容易な場合が多いだけでなく、原因を隠蔽(いんぺい)するおそれがある。このため、加害企業が有害な原因物質を出し、それが被害者に及んで損害が発生すれば、加害者側で無害だと証明できない限り、責任を免れられないとみることが社会均衡の理念にもあう」と指摘した。

 今回、古里原発は、福島のような重大事故を起こしたわけではないが、裁判所は、原発の稼働そのものが「放射線の放出」という被害を生み出していると認めた。さらに、原発が「無害だ」と証明できない限り、賠償責任が生じると断じたのだ。

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