[PR]

 河瀬直美監督の映画「あん」(公開中)で印象深い映像の一つは、ヒロイン(樹木希林さん)と主人公(永瀬正敏さん)が丁寧に丁寧に作るあんこ。きらきらした小豆が湯気を立ててふつふつと煮えていき、やがてしっとりねっとりつやつやのあんこに。風雪に耐え年輪を積み重ね――といった形容がふさわしい樹木さんの顔と交互に映されると、より一層おいしそう。日本人なら思わず舌なめずり(辛党の方は違うかも知れませんが)。

 シンプルで地味で平凡で、でも手間と時間と細心の注意をはらえば奥深い味わいへと至る。病で理不尽な苦しみを強いられたヒロインの人生の意味、生きる喜びを象徴するあんこ。この映画がカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に選ばれたと聞いた時は「でもフランス人にあんこが分かるかしら?」と思いました(好きな人もいるでしょうが)。

 同じカンヌ映画祭で是枝裕和監督の「海街diary」(公開中)が栄えあるコンペティション部門に選ばれたと聞いた時は「でもフランス人にしらすが分かるかしら?」と思いました。舞台が鎌倉で、主人公4姉妹の末っ子すず(演じているのは広瀬すずさん)が湘南名物の釜揚げしらす作りを体験したり、しらす丼やしらすトーストを食べたりする場面があるのです。春の命のきらめきをそのままいただくようなうきうきする食べものであり、更にすずにとっては、亡き父の思い出の味、そして、新たな生活を始めた鎌倉(かつて父が暮らしていた地)と自分とのつながりに気づかせてくれる味でもあるのですが、いったいどういう生き物を加工しているのか海外の人に分かってもらえるのかな、でも隣国スペインにはウナギの稚魚を食べる料理があったな、「あん」のあんこもどら焼き用だからどら焼きなら「ドラえもん」でワールドワイドじゃないか!――などとあれこれ考えてしまいましたが、これは余計な心配というべきもので、今回の本題ではありません。

 「海街diary」は、吉田秋…

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

980円で月300本まで有料記事を読めるお得なシンプルコースのお申し込みはこちら