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 日本の大動脈で、とんでもない惨事が起きた。神奈川県内を走行していた東海道新幹線「のぞみ」での火災だ。

 71歳の男がガソリンをかぶって焼身自殺し、巻き添えで乗客の女性(52)が亡くなった。26人が重軽傷を負い、43本の列車が運休した。

 国土交通省は、64年の東海道新幹線開業後で最初の列車火災事故と認定した。事故で乗客が死傷したのも初めてだ。

 定時運行と事故の少なさから、新幹線は日本の安全の象徴といわれる。車内で油をまき火を付けるという行動はおよそ予測しがたい。だが、被害が出た以上、国と鉄道各社は事実関係を調べ、安全対策に改善の余地がないか、考えるべきだ。

 人が悪意で起こす行為を、未然に防ぐことは難しい。

 スペインと英国では04~05年に列車爆破テロがあり、多数の犠牲者が出た。海外の事件を受け、日本の鉄道もテロを想定した対策を進めてきた。

 東海道新幹線では、新型車両のデッキに防犯カメラを設置した。乗務員や警備員が車内を巡回して不審物をチェックしているほか、警察との合同訓練も実施してきた。

 だが結果として、今回の事態は防げなかった。

 欧州の一部の国や中国では、列車の乗客の手荷物を乗車前に検査している。ただ新幹線は海外より運行本数が際立って多い。東海道新幹線は1日42万人が利用し、1時間に最大15本が発車する。空港並みの手荷物検査をするには要員や場所の確保にコストがかかり、乗客の利便性もそこなわれる。

 駅や車内の警戒をこれまで以上に強め、疑わしい荷物は念入りに中身を確かめる。そうした日常の警備できめ細かく目を光らせるのが現実的だろう。

 警察と協議し、より抑止効果が高いやり方を考えてほしい。

 日本の鉄道は、72年の北陸トンネル火災事故や、03年に韓国・大邱(テグ)で192人が死亡した地下鉄放火事件を踏まえ、燃えにくい車両づくりに取り組んできた。今回も新幹線の車両全体が炎上することはなかった。一方、女性の死因は気道熱傷で、煙や熱気を吸ったとみられる。

 新幹線の乗務員は、乗客が押した非常ブザーで異変に気づいたという。放火されても人的被害を最小限に抑えるため、煙感知器の設置や、排気設備の強化など、ハード面での改良も検討していく必要がある。

 新幹線は多くの国民の日常の足だ。痛恨の被害を、より一層の安心につなげてもらいたい。

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