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 憲法改正をPRするために自民党が作った漫画が論議を呼んでいる。戦勝国の手による憲法は時代遅れで、改憲は待ったなしの課題だ――。作品には党の思想が色濃くにじむ。作り手は「現憲法を否定するものではない」と言うが、憲法の歴史や役割への理解を欠いているとの批判も出ている。

 自民党の改憲PR冊子「ほのぼの一家の 憲法改正ってなあに?」は、4世代5人家族の「ほのぼの家」の日常生活を描くギャグタッチの漫画。憲法改正に不安を持つ母親を安心させるための議論が始まる。

 憲法が翻訳口調との疑問に曽祖父が「日本国憲法の基(もと)を作ったのがアメリカ人だからじゃよ」と答え、連合国軍総司令部(GHQ)が短期間で憲法草案をつくった経緯を説明。諸外国の改正要件と比較しながら、改憲の必要性を訴える。

 物語の最後、曽祖父は「敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままでは いつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」としみじみとつぶやき、不安だった母親は「(息子の)未来のためにも大人の私たちが考えなきゃね」と笑顔で語る。

 6月下旬、埼玉県北本市でこの漫画について考える集会があった。講師の竪十萌子(たてともこ)弁護士(33)が「施行当時の国民が憲法をどう受け止めたのかが漫画には描かれていない」と指摘。旧文部省発行の冊子「あたらしい憲法のはなし」にふれ、戦後復興のさなか基本的人権などをうたう新憲法が歓迎された歴史を紹介した。

 1964年7月に提出された憲法調査会の「憲法制定の経過に関する小委員会報告書」によると、当時は政党や民間団体が様々な改正案を作っており、GHQが草案作成にあたり、日本側の民間草案の一つをある程度参照したことなども確認されている。

 「平和憲法の深層」などの著書があり、憲法制定過程に詳しい古関彰一・独協大名誉教授(憲法史)も「先人が苦労して憲法を作ったことへの敬意が(漫画には)感じられない。押しつけだから憲法を変えるべきだという議論は、事実に反するうえ、自民党が結党以来掲げてきた憲法改正のための口実に過ぎない」と指摘する。

 作品では憲法に定められた国民の権利と義務について語り、「基本的人権があるからといって 何をしてもいいわけじゃない」(祖父)、「今の日本の憲法は個人主義的といえるのう」(曽祖父)、「国の安全に反してもワガママOKってこと!?」(母親)といったセリフもある。

 お茶を飲みながら憲法を語る「憲法カフェ」に参加するさいたま市のパート、飯村淳子さん(47)は「それって日本国憲法のせいなのでしょうか。憲法についてよく知らずに読むと、漫画の流れに引っ張られてしまいそう」と話した。

 自民党が漫画を発表したのは4月28日。当初5万部だったが、その後3万5千部増刷した。党本部のホームページからダウンロードすることもできる。5月には東京・有楽町に宣伝カーを出して聴衆に配った。受け取った男性(25)は「70年近く改正されず、旧態依然としていると感じた。9条に自衛隊を明記したほうがいい」と話した。

 ネットでは発表当時、賛否の書き込みが相次いだ。「基礎的素養や興味がない人向けによくできている」と評価の声もあるが、「憲法は国家権力を縛るものという立憲主義の前提が抜けている」「個人の自由を制限する気まんまん」といった批判が目立つ。市民団体が漫画の問題点を指摘するチラシを作成し、街頭で配る動きも出ている。(岩崎生之助、安倍龍太郎)

漫画の作成に携わった礒崎陽輔・自民党憲法改正推進本部事務局長の話

 漫画を作ったのは、自民党がなぜ憲法改正を主張しているのか分かってもらいたいからだ。憲法ができて70年近く。時代に合わない部分も出てきた。新しい人権も取り入れたほうが良い。人権の裏には義務もあるのではないか。

 連合国軍総司令部(GHQ)が作った憲法で日本は良いのか。だから自主憲法を制定するというのが党是だ。多くの国民は憲法制定の経緯を知らない。善しあしではなく、英文で米軍が書いた憲法を訳せと言われたことを歴史の事実として知って欲しい。

 いまの憲法がおかしい、けしからんということは一言も言っていない。「押しつけ」という言葉も使っていない。あとは国民がどう考えるかだ。

     ◇

 礒崎陽輔・自民党憲法改正推進本部事務局長との主なやりとりは以下の通り。

     ◇

 ――どのような経緯で漫画を作ったのですか。

 憲法なんて考えたことのない人たちに、なぜ、自民党が憲法改正を主張しているのかをわかってもらいたいという目的だ。

 ――登場する「ほのぼの家」のような人が対象ですか。

 そうだ。専門家ではない人たちを考えると、漫画が良いのではないかということで、この1年をかけて準備した。原作は企画業者にやってもらい、私が後から手を入れた。

 ――この漫画のポイントは何ですか。

 自民党がなぜ憲法改正しようとしているか、ということが一つだ。単に「党是だから」というわけではなく、憲法ができてから70年近くたち、時代に合わない部分が出てきた。もう一つは、憲法改正手続きは衆参両院の3分の2の賛成が必要で、改正には非常に厳しい手続きが必要だ。決して自民党の中だけで決められる話ではない。そうしないと国民投票までいかないということだ。

 ――登場人物の若いお母さんは、ずいぶんとヒステリックではないですか。

 それは漫画だから。いろいろ言う人はいるけれども、漫画は面白ければ良いんだ。漫画を文学作品のようにしても仕方がない。

 ――憲法が時代遅れという視点が色濃く出ています。「ケータイもネットもなかった時代の憲法で今の社会についてこれるのかしら?」という言葉もありますが、どういう意図ですか。

 それはもう憲法ができてから70年近くたっているわけだから。特に新しい人権も出てきた。そういうものは取り入れていったほうが良いのではないかということ。

 ――「いまの憲法ってエコじゃないのね!」という言葉は、環境権を書き込むべきだという視点ですか。

 そうするべきかはわからないが、環境権という考え方は日本でも公害問題が出た後に生まれてきたものだ。そういう新しい人権を、みんなが合意できるのであれば取り入れたらどうかという意味だ。

 ――憲法が今の時代とかけ離れているということで、ほのぼの家は「急に不安になってしまったようです」とあります。ずいぶんと憲法に否定的な視点では。

 かけ離れている部分もありますよね、という意味だ。良い部分がないなんてことを言っているわけではない。戦後の日本を復興させてきたのはこの憲法。良い部分はあるけれど、70年もたったら、時代に追いついていない部分もたくさん出てきたでしょうと。その部分は言葉が強いのなら、ご批判いただいてもよいけれども。

 ――憲法が個人主義的という観点から「日本じゃ国の安全に反してもワガママOKってこと?!」などの言葉があります。いまの憲法はワガママが許されすぎているということですか。

 原案はもっといっぱい「ワガママ」を描いていたが、1カ所だけ残した。要は個人の人権が強調されすぎたというのは、自民党の憲法草案を作るときもよく出た指摘だ。人権が悪いと言っているのではなく、人権の裏には義務もある。もう少し家族を大切にするとか、地域を大切にするということがあってもよい。憲法に国柄を表すべきだということも、自民党が主張し続けてきたことだ。

 ――「個人の自由が強調されすぎて、なんだか家族の絆とか地域の連帯が希薄になった70年かもしれない」という言葉が出てきます。家族の絆、地域の連携が希薄になることと、現行憲法との間にはどのような因果関係があるのですか。

 いまの憲法だから全部そうなったとは言わない。都市化や少子化なども原因としてあるだろう。だから、今後さらにそういうことにならないように、憲法の中に新しいものを入れようということだ。いまの憲法を否定的に見ているわけではない。足りないものがあるというのが自民党の主張だ。

 ――漫画では憲法ができた経緯についても扱っています。連合国軍総司令部(GHQ)に押しつけられたという視点が強いですね。

 いや、「押しつけ」という言葉は使っていない。

 ――最後におじいさんが「敗戦した日本にGHQが与えた憲法のままでは、いつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」とつぶやきます。本当にそこまで思いますか。

 私は思っているからそうしたんだけど。そこはいろいろご意見があるだろう。自主憲法制定ということはそういうことだ。GHQが作った憲法で日本はよいのかと。GHQの憲法だから、憲法改正をしなければならないというのが憲法改正だ。

 ――当時の日本人はこの憲法を歓迎し、戦後復興にもプラスに作用した面もあります。肯定的な評価はないのですか。

 まずはこういう経緯で憲法が作られたということを描いている。多くの国民はこれさえ知らない。英文をGHQにポンと渡されて作ったということを知らない。そこは知ってもらわないと。いまの憲法を我々が受け入れたことは否定しない。ただ、占領中、GHQの監督下で作られたのは事実だ。良いとか悪いとかではなく、歴史の事実として知ってもらいたい。

 ――「とんでもない憲法だ」という描き方に読めるのですが。

 憲法がけしからんと言っているわけではない。制定経緯がどうだったかということを我々は言いたい。だから、いまの憲法の中身がダメだということを言っているわけではない。世の中の人は何も知らないんだ。わかりやすいところから考えていかないと。改憲集会に行ってごらんなさい。この内容でも「生ぬるい」と怒られるんだから。(聞き手・安倍龍太郎)(編集委員・豊秀一