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 憲法違反の指摘、根強い世論の反対にもかかわらず、与党が衆院の委員会で安全保障関連法案の採決を強行した。自衛隊を地球規模で派遣するための議論は本当に尽くされたのだろうか。この国の民主主義が試練に立たされている。

□「憲法遵守」の誓いに反する 井筒高雄さん(元陸自レンジャー隊員)

 自衛隊員は全て、入隊時に服務の宣誓をします。

 「私は、わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、日本国憲法及び法令を遵守(じゅんしゅ)し、一致団結、厳正な規律を保持し」「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応えることを誓います」

 自民党が推薦して国会に招いた方を含む憲法学者や、「法の番人」と言われる内閣法制局長官経験者、そして国民の多くが憲法違反と考えている集団的自衛権の行使を認める法案は、明らかにこの宣誓文に反するもので、民主主義をないがしろにするものです。命を張って国民の負託に応えることを求められている現役自衛官たちに対する明白な契約違反です。

命軽視の法律も

 私の入隊は、もともと陸上競技を極めたいと考え、自衛隊体育学校が希望でしたが、「体力があるから」と勧められレンジャー隊員になりました。

 3カ月にわたる陸自で最も過酷とされる訓練では、炎天下、小銃を携帯し、完全武装で20キロ走。生きたカエルや蛇を食べさせられる生存自活。敵を暗殺する隠密処理など数々のメニューをこなすことで、外国並みの精強な兵に育てられます。死亡事故が発生することもあり、遺書を書かされます。

 しかし、約14万人とされる陸自隊員のうち、レンジャー経験があるのは5千人ほどしかいません。9割以上が最過酷の訓練には挑戦できない、いわばサラリーマン隊員です。そうした実態で恒久法による海外派兵に耐えられるとは思えません。

 私自身は定年まで働くつもりでしたが、1992年に国連平和維持活動(PKO)法が成立したことで、依願退職をしました。自衛隊の役割が国土防衛から海外派兵まで拡大したわけですが、そうした契約を国と交わして入隊したわけではありません。敵が撃つまで反撃もできず、誤って射殺すれば帰国後、罰則を受けかねないなど、自衛官の命を軽視した法律に我慢がならなかったからです。

 今も、同期の隊員が一線で頑張っています。今回の法案について彼らの本音はなかなか漏れてきませんが、先行きについて最も不安で、懸念を持っているのが、彼ら隊員やその家族であることは間違いありません。

求められる覚悟

 中谷元・防衛相が、今後、自衛隊員が死傷するリスクについて、「これまでも命がけで、これ以上ないリスクを負っている」「変わりない」と答弁。最高指揮官である安倍晋三首相も「今までも自衛隊は危険な任務を担っている」と述べました。新たに海外の紛争に巻き込まれる現場の隊員に寄り添った発言とは思えません。

 士気は落ちるでしょう。これでは「総理が言う、積極的平和主義のため働こう」という気持ちにはなれません。最低限、彼らや家族の本音を聞く機会を、政治家は持つべきです。同時に、万が一の事態の際の補償や、残された遺族に対する年金の支払いなどもきちんとさせなくてはなりません。

 加えて、最低二つの条件を実行することが求められます。まず、全現役自衛官との再契約の実施です。具体的には、本土防衛を前提とした服務の宣誓内容を、集団的自衛権の適用に沿って改訂させ、それができない隊員については、無条件で退職を認めることです。

 もう一つは、やはり全自衛官にレンジャー訓練を義務づけて実施することです。厳しい海外の戦場で対応できる能力を育て、厳しい選別に対応できない人には辞めてもらわねば、本人にとっても、部隊にとっても気の毒です。

 国民にも強い覚悟が求められます。自衛隊任せでは済みません。国内勤務に比べ、はるかに強いストレスにさらされる海外派兵の結果、帰国後の自衛官には最悪の場合、自殺するなどの後遺症が見込まれます。社会全体が心のケアを引き受けなくてはならないのです。(編集委員・駒野剛)

     ◇

 69年生まれ。高校卒業後の88年に陸上自衛隊に入り、3等陸曹で退官。大阪経済法科大学卒業後、02年から兵庫県加古川市議を2期8年務める。

□絶望せずにモノ言う勇気を 澤地久枝さん(ノンフィクション作家)

 少数の意見にも耳を傾け、多様性を重んじるのが民主主義だと思っています。安保法制に反対する世論は強まっているのに、安倍政権は聞く耳を持たず、衆院を通過させようとしています。これは民主主義の否定ですね。選挙民の負託を受け、政治に携わる自覚と謙虚さが全く感じられません。

 安倍晋三首相は民主主義を軽んじているから4月末の米議会演説で法案を「夏までに成就させる」と勝手に期限を切って宣言したのでしょう。オバマ大統領にもがっかりですね。民主主義国家のトップとしての自負心があるなら、首相の勝手な約束を「まず国民にきちんと説明すべきでしょう」といさめるべきだったと思います。

憲法無視は非道

 その後の衆院憲法審査会では、自民党が推薦した長谷部恭男・早大教授も含め、3人が安保法制を「憲法違反」だと述べました。しかし、安倍政権は理性と知性に裏打ちされた、この大切な指摘にも耳を傾けることなく、無理な憲法解釈で突っ走ろうとしています。

 憲法99条には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と書かれています。憲法は政治家の恣意(しい)的な暴走に歯止めをかけるためにあります。政治家が憲法を無視したら、それは非道の政治です。

 旧満州・吉林で敗戦を迎えた14歳の時から私は国を信用していません。ソ連軍が入ってきて、父親の仕事はなくなり、住んでいる場所を追い出され、生きる道筋が吹き飛びました。「一夜のうちに国は消えてしまった。国というものは、なんてあてにならないんだろう」と思いましたね。1年間の難民生活を経て日本に引き揚げてきました。その体験を通して、二度と戦争はしてはならないという思いが変わることはありません。

 1942年6月のミッドウェー海戦について調べた時に、海戦で亡くなったアメリカ軍人の息子が成人してベトナム戦争で戦死した事実に出会いました。憲法9条を掲げる日本は戦後70年、一人の外国人も殺さず、また一人の日本人も戦死することなく、平和国家として歩んできました。一人の自衛隊員も米国主導の「テロとの戦い」に巻きこまれる形で亡くなって欲しくありません。

平和国家の信用

 もし戦闘に巻きこまれれば、敗戦後に築き上げてきた「日本は戦争をしない国」という世界的な信用は失われてしまいます。

 アフガニスタンで長年にわたって診療や干ばつ地域の農水路建設支援を続けている「ペシャワール会」の現地代表で医師の中村哲さんは、一貫して自衛隊の海外派遣に反対し、丸腰で貢献を続けています。現地で高い信頼を得ている中村さんは、日本が集団的自衛権の行使に突き進んだ場合、日本人であるがゆえに攻撃の対象になることを懸念しています。これまでの献身的な仕事を台無しにする政治がまかり通っています。

 「アベ政治」への抗議の意思を示すため、18日午後1時にポスターを一斉に掲げる運動への参加をネット上で呼びかけています。私が思いついた、政党や組織とは全く関係のない全国的な呼びかけです。俳人の金子兜太さんが「アベ政治を許さない」という色紙の文字を書いてくれました。呼びかけ人として作家の瀬戸内寂聴さん、憲法学者の小林節さんら120人以上が集まってくれました。

 ひどい政治状況を見ていると、絶望感に襲われますが、絶望したら終わりです。これから参院の審議もある。ひとり一人の力は弱くても、声が広がっていけば世の中は確実に変わります。私が若いころは、女性が子育てをしながら仕事をすることは御法度だったけど、今では当たり前でしょ。

 権力にモノを言うことに勇気が試される時代です。でも権力は放っておくと悪さをしますから。手遅れにならないように、私は私の小さい旗を掲げ続けます。(古屋聡一)

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 30年生まれ。中村哲さんとの共著「人は愛するに足り、真心は信ずるに足る」など著作多数。「滄海(うみ)よ眠れ」「記録 ミッドウェー海戦」で菊池寛賞。

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