安保関連法案は憲法違反か

 まず前提として、憲法の内容を改変する場合には、原則的には正当な憲法改正手続を経るべきであると考えます。ただし、私は閣議決定や国会の議決による解釈改憲を必ずしも全面否定はいたしません。日本の特殊事情として、国民の間に憲法は変えるべきでないという意識が強かったこともあり、これまでの日本は、本来は憲法改正手続によるべきところを、解釈や慣行で変えてきたこともありました。これは好ましいことではありませんが、だからといってその効力を否定することもまた適当ではないでしょう。たとえば9条は制定当時、個別的自衛権も放棄したと考えられていましたが、後に個別的自衛権は放棄していない、自衛のための必要最小限度の実力は持てると変えましたし、79条4項、80条2項には裁判官の報酬は減額できない旨を規定していますが、裁判官会議の同意を経て法律を改正し、減額した例もあります。これらは、本来ならば憲法改正手続で行う方が適当であったことは間違いありませんが、だからといってただちに無効とはならないと考えます。それは、憲法の精神と相反するものではないと考えられる(少なくともそう考える余地がある)ものだからです。

 今回の集団的自衛権を認める閣議決定、あるいは存立危機事態に自衛権行使を可能にする安保法案は、現行憲法の精神――これは制定当時のというだけでなく、日本国憲法を最高法規として学び、守ってきた日本国民が、制定以来70年にわたってこの憲法に付与してきた意味も含め――に反するという点だけでなく、憲法の他の条文との整合的解釈が不可能であるという点でも、憲法に違反すると考えます。

 集団的自衛権の正確な定義は存在しませんが、少なくとも自国が何らの危機にもさらされていないのに他国防衛のために武力を行使するということは、現行憲法はまったく予定していません。自衛隊は軍隊ではなく、交戦権が否認されている。交戦権は、戦闘行為が合法となるというだけでなく、交戦国に認められるもろもろの権利の総称です。他国で、万が一にも戦闘に及ぶ場合、襲ってきた敵を撃退するところまではともかく、動けない敵の負傷兵を捕虜にできず、つまり治療もできず、そこに放置するのでしょうか。自国の主権内であれば怪我をした外国人負傷者を保護することには何の問題もありませんが、他国の領域で戦闘を行うことは、このように、憲法の想定外であり、現行憲法内では対応しきれないものであると考えます。

 したがって、存立危機事態に集団的自衛権の行使を可能にするという今回の法案は、現行憲法には違反するものです。これは集団的自衛権を認めることの政策的な是非についての問題ではありません。まずは憲法改正手続によって、その是非について国民の判断を仰ぐべきものであると考えます。

 付言すれば、現在国会前や日本各地で安保法案に反対するデモが行われていますが、憲法改正手続にかければ国民投票が必要なわけですから、それで反対票を投じれば良く、本来はあんな運動をする必要もないわけです。彼らがああしてデモをしているのは、本来国民が有するはずの憲法改正権を奪われたせいであるとも言えます。

昨年7月の閣議決定は妥当か

 以上のように、現行憲法の許容していない解釈の変更を閣議決定で行うことは、許されません。上位法を下位法によって変えることを許しては、憲法の最高法規性は保たれません。権力というリヴァイアサン(怪物)が国民に牙を向けないように、国民の人権を守るために、権力によっては容易に改変できない憲法という最高法規で権力を縛るというのが、立憲主義の考え方です。なのに、権力自らが勝手にその拘束を外してしまうことを許しては、この大原則が覆ってしまいます。どれほど正当な目的のためであっても、それが憲法に明らかに反するならば、まずは憲法改正によらなければなりません。

自衛隊は憲法違反か

 現在の自衛隊が専守防衛という概念に縛られている以上、たとえ高性能な武器を有しており、錬度も外国軍隊に遜色ないとしても、本質的には外国の軍隊とはまったく異質であり、軍隊ではないという政府見解には一定の合理性があると思います。また、国民も、発足当時はともかく、これまで60年間専守防衛という考えを守ってきたことへの評価、本来の任務ではないとはいえ災害救助活動などでの活躍ぶりなどから、自衛隊は国民を守り、助けてくれる、必要な存在であるとの考えが醸成されてきたと思います(それはあるいは災害救助隊としてかもしれませんが)。そうであるならば、違憲であると考える必要はないと考えます。

 (なお、設問の②「憲法違反の可能性がある」と③「憲法違反にはあたらない可能性がある」は、選択肢の順序からすると憲法違反の可能性は②の方が高いという趣旨かと拝察しますが、私には日本語の語感として③の方が可能性が高いという印象を受けました。あまり適切ではない選択肢かと存じます)

憲法9条の改正について

 それは国民が決めるべきことであり、憲法学者としての立場では答えるべきではないと考えます。もちろん私にも一市民としての考えはありますが、ここではおそらく憲法学者としての見解をお訊きになっていると思うので、回答は差し控えさせていただきます。

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