安保関連法案は憲法違反か

 一般論として、憲法の範囲内において、政府が従来の憲法解釈を変更すること自体に憲法上の問題はありません。したがって、従来解釈との論理的整合性や一貫性が欠如していることは、それだけでは憲法違反の理由にはならないと思います。もちろん、新解釈への変更の理由や妥当性について、政府は政治責任を負うことになります。

 国際法上認められた「権利」を行使するのに、特段の憲法上の根拠が必要であるとは考えられていません。個別的自衛権と集団的自衛権についても、その行使を基礎づける憲法条文が必要なわけではなく、国家は憲法が禁止していない限り行使できる、とするのが一般的な理解だと思います。他の主要国を見渡しても、個別的・集団的自衛権の行使を許容する旨の明文規定を置いている憲法は見当たりません(少なくとも一般的ではありません)。そうでないと、個別的自衛権についても、憲法の明文規定がなければ行使できないことになってしまいます。

 日本国憲法を見ると、個別的自衛権と同様に、集団的自衛権の行使についても明確な禁止規定は存在しません。それゆえ、憲法の文言からは、集団的自衛権の行使を明らかに違憲と断定する根拠は見いだせません。憲法9条1項を国際法上の用法に従い武力行使禁止原則を掲げたものと解する有力な立場によれば、同項が禁止するのは、国策の手段としての「戦争」および日本が当事国となっている国際紛争についての「武力による威嚇又は武力の行使」であり、自衛のための武力行使は禁止されていない、ということになります。そうすると、憲法解釈によっても、個別的・集団的自衛権の行使が禁止されている、と直ちに結論づけることはできないと思います。

 なお、違憲論の中には、解釈の変更ではなく憲法改正によって対処すべきだとする意見がありますが、このような意見は、憲法9条をどのように変更すべきかの具体案(例えば、現在の憲法のどこを修正すれば、集団的自衛権行使が認められるようになるのか)の提示を伴っていない限り、真摯なものとは言えないように思います。具体案を示さなければ、学問上建設的な議論ができないだけでなく、政府与党が憲法改正を選択する際にどのような原案を用意すればよいのかもわからないため、専門家としての責務を果たしたことにならないのではないか、と考えます。

 注意してほしいのは、集団的自衛権行使および安保法制の合憲違憲の議論と、安保法制への賛否の議論とは別の議論だということです。前者は、専門的な知見に基づく憲法問題であるのに対して、後者は政治的に決定される政策問題です。したがって、憲法学者が専門家として答えられるのは前者の問題だけのはずであり、私の見解もその限りのものであることを申し添えます。

【法案審議について】

 現在の議論の問題点は、安全保障の論議がもっぱら憲法論議に収斂していることです。しかし、わが国の平和と安全をどのように確保し、さらには国際社会の安定のためにどのような役割を果たすべきかという実質的な議論が、70年前の憲法の文言や40年前の解釈との整合性の問題に矮小化されるのは、本来、望ましいことではありません。審議中の安保法制が憲法に違反するかどうかでなく、これからの日本や国際社会の平和と安定に真に貢献するものであるかという政策論議の方を、国民は期待しているのではないでしょうか。

 国会での議論が憲法論議に集中している大きな原因は、政府自身が従来解釈との論理的整合性に拘ったことにあると考えています。「変えた」のに「変わっていない」と強弁する政府の姿勢はわかりにくいだけでなく、国民の不信を募らせる結果にもなっていると思います。政府が初めから、別の論理に基づいて新たな解釈を提示したことを認めていれば、今のような状況とは違って、現実的な政策論議が展開されていたのではないでしょうか。もちろん、その前提として、首相は、解釈変更の理由を丁寧に説明し、国民の理解を得るための努力をする必要があると思います。

 他方、集団的自衛権行使の可否を最終的に決めるのは国会が制定する法律であり、かつ、裁判所による合憲違憲の審査対象になるのも法律なのですから、国会は、政府や内閣法制局の憲法解釈に依りかかって議論するのではなく、国権の最高機関として自らの判断と責任で憲法解釈を行い、法案審議をすればよいと思います。

【附記】

(おそらく、貴社〈注:朝日新聞〉の立場からすれば、このアンケートは、憲法学者の中で安保法制の違憲論が圧倒的多数であることを実証する資料としての意味をもつのだと思います。しかし、言うまでもなく、学説の価値は多数決や学者の権威で決まるものではありません。私の思うところ、現在の議論は、圧倒的な差異をもった数字のみが独り歩きしており、合憲論と違憲論のそれぞれの見解の妥当性を検証しようとするものではありません。新聞が社会の公器であるとすれば、国民に対して判断材料を過不足なく提示することが求められるのではないでしょうか。また、そうでなければ、このようなアンケートを実施する意味はないものと考えます。)

憲法9条の改正について

 憲法改正の必要性は国民が決めることであり、憲法学者が回答すべきではないと考えます。

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