【動画】「考えること」や「対話」の重要性を語る為末大さん=佐藤正人撮影
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為末大さん 元陸上選手・被爆3世

 祖母が爆心地近くで被爆して、僕は被爆3世です。

 初めてリアリティーを持って戦争が怖いと思ったのは、「茶色の朝」というフランスで出版された本を読んだとき。架空の国の政府が茶色以外の猫を飼うことを禁止する。仕方がないかと主人公は見過ごすが、茶色でなければならない取り締まりの対象がしだいに広がっていく。全体主義のような空気に恐怖を感じた。

 戦争の話では空気という言葉が何度も出てくる。なぜ戦争に反対しなかったのか。そんな空気ではなかったと。いったん空気ができると誰にも止められなくなることを日常でも感じる。

 僕は新国立競技場案に反対した。それはスポーツではない仕事をしている外側の人間だったからだと思う。もし中にいて人間関係ができていたら反対できなかったかもしれない。

 人の行動は状況によって変わる。空気が人間の行動を支配している。

 東日本大震災後、僕はスポーツ選手に対し、苦しい状況でもトレーニングを続けることが大事だとブログに書いた。300件を超える不謹慎だという批判が来た。女子サッカーが世界一になると、「勇気をもらった」という声を同じ人から聞いた。彼女たちが練習を休んでいたら優勝できなかった。興奮した状況下では誰もが一色に染まり過激になり得るのだと感じた。

 小学生のとき、作文では「原爆はよくない」と書かないといけなかった。よくないと決まっているから。でも、なぜよくないのか、もっと考えたかった。

 みんなで話しながら、平和や戦争、原爆のことを考え、納得していく。時間はかかるが、納得した子どもは平和を深く考えるようになる。自分の頭で考え、自分の価値観で判断する。全体が何かの空気に染まりそうなとき、ストップをかけられる人間が育つと思う。

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 広島県出身。陸上400メートルハードルで01、05年の世界選手権銅メダル。五輪はシドニー、アテネ、北京の3大会に連続出場。12年に現役を引退。一般社団法人アスリートソサエティ、為末大学などを通じて、スポーツや社会、教育、研究に関する活動に携わる。著書に「走る哲学」など。37歳。