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第2章:5

 判決から約2週間が過ぎて、裁判員を務めた小田篤俊さん(44)のもとへ、東京地方裁判所から封書が届いた。2010年8月のことだ。

 入っていたのは、A4判8ページの判決文の写し。判決の言い渡しの後に裁判長に聞かれ、入手したいとの希望を伝えていたので、送ってくれたのだ。

 裁判長からの手紙も同封されていた。その中の一文に、小田さんは驚いた。

 「被告人から控訴の申立てがあり、本事件は東京高等裁判所による審査を受けることになった」

 「えっ、控訴したの?」

 強盗致傷事件で懲役13年の求刑に対し、8年6カ月だった判決に被告は納得していたとばかり思っていた。

 「なぜ?」

 判決を聞いて泣いていた被告の、あの涙は何だったのだろう。でも控訴するのは被告の権利だ。控訴を批判する気持ちはみじんもなかった。人の受け止め方は違うものだ、と改めて思った。

 「お金を払ってでも裁判員をしてみたい」と思っていた小田さんが、実際に4日間裁判員を務め、強烈に感じたのは、自分自身、よくわかっていないことが多い、ということだった。もっと知りたいという思いがむくむくとわき上がった。すぐに図書館に通い始めた。司法関係や死刑に関する本を読みあさった。

 2010年春に大学は卒業していた。教員免許は取得したものの、会社勤めを続けたため、授業で裁判員の経験を話す機会はなくなっていた。それでも、勉強したかった。

 時間を見つけては、集会やシンポジウムなどにも顔を出した。裁判員経験者や弁護士と知り合い、世界がどんどん広がった。仲間たちと刑務所見学も始めた。

 12年、最初に行った千葉刑務所は、無期懲役を含む刑期10年以上の犯罪傾向が進んでいない人を収容している、と説明された。独居房で、本やテレビなどもあった。ラジオも聴けると教えてもらった。

 その後、府中刑務所、翌年には横浜刑務所にも足を運んだ。横浜は刑期は短いが犯罪傾向が進んだ人、つまり、何回も服役している人が収容されていた。平均刑期は4年未満と説明された。

 千葉刑務所では各部屋に置いてあった地図が、横浜では見かけることがなかった。千葉刑務所に服役したことのある人が「初犯の重罪で服役しているから、昔を思い出していろいろ考えるために地図を見る」と何かに書いていたのを思い出した。横浜で代わりに目についたのが、写真立てだ。家族の写真がたくさん飾られていた。

 違いを口にすると、一緒に見学に来ていた元受刑者が解説してくれた。「千葉は重大事件を起こし、身内から縁を切られている。飾る写真もないし、思い出したくもないんだと思う。一方、横浜は出所できる時期が見えている。だから、写真を見て頑張れるんだろうな」と。

 その瞬間だった。

 小田さんは自分たちが出した判…

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