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第2章:7

 小田篤俊さん(44)の携帯電話が鳴った。

 「愛知県警です」。相手はそう名乗った。2011年5月のことだ。

 愛知県内在住の20歳の男性が被災者を装った詐欺事件を起こしたという。自分が11人の被害者のうちのひとりだ、と説明された。

 思い当たることはあった。

 東日本大震災の直後、ラジオで、出会い系サイトを使った被災者支援のサイトが立ち上がったというニュースを聞いた。自分が提供できるものを掲示板に書き込むと、欲しい人から連絡が来るというシステムだ。「これなら協力できる」。カレンダー、年賀タオルなどを書き込み、送った。

 会社の事務所で旧型のプリンターのインクがたくさん余っていた。掲示板に載せると、反応があった。指定場所に送ったものの、届いたかどうかの連絡が来ない。何か、変だなと、と感じていた。

 警察によると、そのインクを、男性がネットオークションで1万3千円で売りさばいていたらしい。被害届を出してほしいと求められた。

 前年に裁判員を経験した小田さんは、ある思いを抱いていた。裁判に参加して証拠の大切さを痛感した。同時に、知りたい証拠や証言が足りないとも感じた。捜査不足もあるかもしれないが、見て見ぬふりの人や無関心の人が多いことも影響しているのではないだろうか、と。自分は人任せではなく、かかわったことについてはきちんと対応していこう、と心に決めていた。

 出張のついでに名古屋に立ち寄った。警察署に足を運び、事情聴取に応じた。警察からは「なぜ、わざわざ来たのですか?」と珍しがられた。

 検察官からは電話が入った。起訴状の内容を確認されたが、被害者感情を強く押し出し、必要以上に被害を大きくしようという意図を感じた。送料の530円だけを返してもらえればいいと答えた。「そもそもゴミですから」と。

 大げさに罪を大きくしていないか確認したくて、詐欺の罪で起訴された被告の裁判にも3回、出かけた。傍聴していて、高校を中退、ひきこもりになった青年が、家に金を入れる手段として被災者を装った詐欺をしていたという事情がわかった。判決は懲役2年執行猶予3年。ほとんど人のいない傍聴席から「ちゃんと更生してほしい」と祈るばかりだった。

 裁判員を務めていなければ、知らん顔していたかもしれない。裁判員の経験から、小田さんは市民のひとりとして、社会の中で生きているという感覚をもらったような気がしている。

 一方で、「裁判員制度はおおむねうまくいっている」。司法関係者がこうした発言をするのを聞くと、腹が立つ。

 法的な知識はほとんど何もない…

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